12月25日。あと一時間で日付も変わる頃、やっと小僧が帰ってきた。だが、帰ってきてそうそうにベッドに倒れ込んだ。全く、世はクリスマスだと浮かれているときに、ご苦労なもんだ。
「今日はクリスマスだぞ」
「あぁ」
小僧はそれだけ言うと、俺に扉を閉めるように示した。俺が閉めるのを確認してから、小僧は半身を起こして、ベッドの上に座り直す。
「キリスト教を信じているわけでもないし、企業の策略に乗る気もない。だから、僕にはクリスマスなんて関係ない」
「ほう、それはクリスマスに素敵な恋人が居ないことへの恨みか?」
「誘いがなかったわけじゃない。仕事があったし、それに…」
「それに?」
口ごもった小僧にすかさず聞き返した。小僧はじっと俺を見つめて、何かを伝えようとしているらしいが、残念ながら俺にはちっともわからない。
「何だよ」
「お前は何で変なところで鈍いんだ」
「は?」
「だから、僕は、もう残りも少ないけど…クリスマスをバーティミアスと過ごしたいんだ」
一息で言ったナサニエルは息を吐いた。俺は、ゆっくりとナサニエルに近づいて、その隣に座る。ナサニエルはしばらく膝の上で手を閉じたり開いたりしていたと思ったら、急に力なく俺の肩にもたれ掛かってきた。少しして、手持ちぶさただった俺がナサニエルの頭を二三度撫でてやると、小僧は思い出したようにふと顔をあげる。
「バーティミアス、」
「何だ?プレゼントか?」
「…そんなところだ。明日、一日休みにしてきた。だから…」
「解放なら、するな」
自分で言っておきながら驚いていた。今は解放されるよりも、ナサニエルと一緒に居たい、という気持ちの方が勝っている。まだ何か言おうとしたナサニエルを手で制して、俺は続けた。
「ちょっと遅い、サンタクロースからのプレゼントだと思って、少しは休め、ナサニエル」
「…ありがとう」
ナサニエルはそう言って微笑む。全く、俺はどうしてこんなことになっているのか。ふっと自嘲気味に笑みをこぼした。
「あぁ、ナサニエル」
「ん?」
「俺からもプレゼントだ」
俺はナサニエルの額に口付けた。額を押さえて赤面した小僧は、ばか、と小さく呟いてから、俺の頬に口付ける。
「僕からも、お返しだ」
コツンと互いの額を合わせて、しばらく至近距離で見つめ合った。それから、どちらからともなく口付ける。
残りも少ない聖なる夜は、二人を優しく見守っていた。