もし、一生に一度しか誰かを愛する事が出来ないとしたら、俺はどうするのだろうか。俺には長い一生があるのだから、二度にしてもらえないだろうか。それだったら、ちょうどよく収まるのに。俺はぼーっとしたまま宙を仰いだ。
「バーティミアス」
「あ?」
小僧に呼ばれて、気の抜けた返事をする。こてんと首を傾げてみせると、小僧はため息をついた。
「最近、僕の話を聞いてないだろう」
「最近、じゃない。昔からだ」
そうじゃなくて、と小僧は頭を抱える。全く何が言いたいのか、俺には理解しかねる。
「何か上の空なんだよ、僕が話していても」
「俺が?まさか」
「まさかじゃない。本当のことだ」
「まぁ、俺は常に思慮深いからな」
俺は微笑みながら言ってやった。だが、小僧が言ったことも、事実は事実だ。最近はしばらくプトレマイオスとナサニエルのことばかり考えている。
「なぁ、ナサニエル…」
俺がさっきとは違う声を発したからか、ナサニエルは真面目な表情で俺を見た。
「もし、一生に一度しか誰かを愛する事が出来ないとしたら、お前はどうする?」
「僕はどうもしない。最初から決まっている」
ナサニエルは即答して、すぐに俺から視線を外す。ナサニエルの答えなんて正直、聞かなくてもわかっていた。小僧はこの手のことになると頑固になる。女性経験も無いくせに、よく言ったもんだ。
「本当にそれで後悔しないのか?」
「しない」
「いいのか?」
「あぁ、もう!うるさいな!!僕はお前しか知らない。僕の全てを知るのは、お前しか居ない。僕はお前を愛している。それでいいだろう」
小僧はまくし立てるように、早口で言った。言い終わると俺を見て、文句は?とだけ聞く。
「無い。それでいい」
俺はもう一度宙を仰いだ。外にはうようよいる、インプや他の妖霊の気配は全く感じない、俺とナサニエルだけの空間。同じような空間に二千年前も居た。俺は、過去と現在、どちらを選ぶのか。七つの視界が揺れて、俺はゆっくりと目を閉じた。