俺はプトレマイオスと約束をした。一度しか誰かに、愛している、と言わないと。そして、俺はその場でプトレマイオスに使ってしまった。だから、俺はもう誰にも愛していると言うことが出来ないのだ。しかし、今、俺はどうしてもその約束を破りたい衝動にかられている。
二人でソファに座って、手を繋いで、言葉も交わさず、ただ見つめ合う。先に目をそらしたのは小僧だった。だが、先に沈黙に耐えられなくなったのは俺だった。
「小僧、」
「何だ」
「愛するって何だ」
突然の俺の問いかけに、小僧は一瞬ぽかんとしたが、すぐにむっつりと考え込む。
「僕は、あまりわからない」
小僧は、でも、と続けて言った。
「本当に、心から愛した人に、一度しか言ってはいけない、と聞いた」
そう言って小僧は俺の肩にもたれ掛かる。小僧の言っていることは、たぶん正解なのだろう。そして、小僧も俺と同じような誓いを立てているのかもしれない。
「小僧は、ナサニエルは、まだ無いのか?」
「何が」
「誰かに言ったことだ」
「それは、まだ無い。それに、僕は一生に一度しか言わないと決めている」
ふーん、と俺はつれない返事を返す。正直、予想通りで驚いていた。俺は真っ白な天井に向かって息を吐く。
「俺は、今迷っている」
ナサニエルは顔をしかめた。俺の言った意味が分かったのかもしれない。
「そんなこと、僕に言われても困る」
「困ればいい」
俺は繋いだままのナサニエルの手を勢いよく引いて抱き寄せる。肩口に顔を埋めると、すぐそばで息を飲む音が聞こえた。それすらも、愛しいと感じる程度に、俺はナサニエルを愛している。
「ナサニエル、」
「愛している、バーティミアス」
ナサニエルに先を越された。ナサニエルの顔を見ると耳まで真っ赤に染めている。俺はナサニエルの頭を撫でてやった。
「これは、僕の最初で最後だからな」
「あぁ」
俺たちはどちらからともなく、ゆっくりと唇を重ねる。その重なる寸前に、俺はプトレマイオスとの約束を、破ってしまった。
この想いはどうしようもない。ただ今は、ナサニエルを愛している。