俺は珍しく微睡んでいた。この俺が、だ。だいぶ人間に感化されてきちまったな、と心の中で悪態をついた。二年も小僧と一緒にいたら、それぐらいにはなってしまうのだろう。それとも、主従以上の想いを抱いてしまった代償か。俺はよく聞こえるようにため息をつく。でも、正直なところ、この想いは初めてではない。二千年前にも同じ気持ちを抱いていた。小僧と同じところと、もしくは、正反対なところしかない、プトレマイオスに。俺は初めて小僧に召喚されて使役していたときに、実はナサニエルはプトレマイオスの生まれ変わりなのではないかと思ったほどだった。それほどまでに、ナサニエルとプトレマイオスは似ていたのだ。だが、小僧はプトレマイオスほど愚かではなかった。まぁ、俺の敵ではあったが。頭の回転が速すぎて、可愛げもない。しかし、俺だけに時たま見せる年相応の仕草や発言。俺は小僧のそこに惹かれていた。吹いたらすぐにでも飛んでいってしまいそうな小僧は、少なくとも俺だけにはちらりと本音を出す。それは無意識のうちに、俺に心を開いている証拠なのかもしれない。
だが、俺はどんなに小僧に惹かれていても、プトレマイオスのことを忘れることは出来なかった。つまり、俺は二股をかけているようなものだ。しかし、片方はもう随分昔にこの世から去ってしまっているから、二股になるかどうかは定かではないが。とにかく、今の俺の想いは二人にある。

「おい、小僧」
「…何だ」

小僧は眉間にシワを寄せながら振り返った。全く可愛いげがない。俺はプトレマイオスから黒猫に姿を変えると、小僧の膝の上にヒラリと飛び乗った。

「人を呼んでおいて、用件は何だ?」

小僧が俺の背を空いた手で撫でながら悪態をつく。俺は小僧の問いに一息おいてから、口を開いた。だが、小僧に聴く覚悟が決まらない。

「お前は…あー、やっぱりいい。何でもない」
「何だ。言え、バーティミアス」

そう言われたが、俺は口をつぐんだままでいた。『プトレマイオスを知っているか』と聞くだけのこと、何故それがこんなにも難しいのか。俺はありえない考えに至ったが、その考えを振り払って、小僧の手を舐めてやった。
まさか、本当にナサニエルがプトレマイオスの生まれ変わりだなんて、そんなことがあるわけがない。


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