バーティミアスなんて嫌いだ。好きでもない。ナサニエルは地面を打つ雨の音を聞きながら、ふっとため息を漏らした。ローズティーに口付けても、柔らかい香りはナサニエルを優しく包み込むことはなく、喉を通り過ぎてしまう。
バーティミアスなんて、と本日二度目のため息をついた。嫌いであるはずなのに、バーティミアスのことばかり考えてしまう。嫌いであるはずなのに、どうしてもバーティミアスが気になってしまう。嫌いであるはずなのに、傍に居ないと不安になる。ナサニエルは全く進まない書類の上に伏した。目を瞑って思い浮かぶのは、バーティミアスのこと。ありのままのナサニエルを知っているのは、後にも先にも、バーティミアスだけである。
だからこそ、考えずには居られない。気になって仕方がない。傍に居て欲しいと思ってしまう。依存にも似たナサニエルの感情は、確実に愛情であった。
「嫌いだ、バーティミアス」
ナサニエルは深く息を吸う。
「だが、愛している」
そう言ったナサニエルの口角は少しだけ上がっているようにも見えた。地面を打つ雨の音は当分止みそうにない。