※そんなアレでもないけど、とりあえずナサが襲われかけるから注意
※モブのおっさん達が居る




















人生なんてどうでもいい。ナサニエルは、霧の街を一人で歩いていた。会議はさぼった。運転手には、迎えの際には連絡すると伝えておいた。しばらくは、一人になれる。うつうつとして、行く宛もなく、ふらふらする。こんなことは生まれて初めてかもしれない。はぁ、とため息をつく。人生なんてどうでもいい。今ここで、消えてもいい。大きなため息をついて俯いたその瞬間、何者かによって、路地に引き込まれた。

「何をするっ」
「ちょっと黙ってなァ、お偉いさんよォ」

下卑た笑い方をする男に、ナサニエルは眉をしかめた。早くここから逃げたいと思い、身を捩るが、腕に力が入らない。咄嗟に呪文を口走るが、男には免疫があるらしく、全く効果がない。ずるずると引き摺られるがままになり、突き当たりまで連れて来られた。そこには、ナサニエルを連れてきたような男が他にも2人居る。

「政府のお役人サマか」
「こら、だいぶ上物だな」

その中の一人がナサニエルの顎をつかみ、持ち上げた。

「俺達が先に試してもいいよなァ」

汚ならしい笑みを称えた男はおもむろに、ナサニエルのコートに手をかける。ナサニエルは思わず叫んだ。

「何をするつもりだ!」
「何って、ナニ?」

下品な笑い方をする男達は、ナサニエルの必死の抵抗も虚しく、あっさりとコートのボタンを外してしまった。

「こんなことをして、いいと思っているのか?」
「仕方ねぇよ。政府は一般人のことなんか何も考えちゃない。俺達はこうやって食っていくしかねぇんだよ」

男はジャケットのボタンを器用に外す。ナサニエルは会議をさぼった事を嘆いた。同時に、ある名前を心の中で呼んだ。バーティミアス、世界中の何よりも大切な愛する妖霊。死ぬわけではないが、何故かバーティミアスのことが思い出された。そうしている際にも、男はナサニエルのシャツに手をかけている。ナサニエルはぎゅっと目を瞑った。

「よう」

陽気な声がして、ナサニエルは閉じた目を開いた。男達も固まっている。声のした方を見ると、褐色の少年が微笑んでいた。しかし、瞳は怒りに燃えていた。

「バー、ティミアス…」

ナサニエルの声は掠れている。一人の男が顔をしかめた。

「誰だ?」
「俺か?俺はただの通行人だ」
「とりあえず、捕まえとけぇ。傷付けるなよ。あいつも相当な上物だ」
「簡単に言うが、俺は一筋縄じゃいかないぜ」

バーティミアスは男の手を身軽に避けた。その男を踏み台に一気に跳躍して、ナサニエルの横に降りる。その勢いでナサニエルを捕まえていた男の顔面を蹴り飛ばして、ナサニエルを抱き留めた。

「助けに来た」

バーティミアスの言葉に、ナサニエルは瞳が揺れるのを感じたが、それを無理矢理押さえて、言葉を絞り出す。

「なんで…何で助けに来た」

人生なんてどうでもよくなっていた。終わらせてくれて構わなかった。でも、バーティミアスが助けに来てくれて、救われたと思った。それなのに、天の邪鬼の言葉しか出てこない。

「は?呼んだだろ?」
「助けなくても、よかったのに!!」
「俺が助けに来なかったら、お前自分がどうなってたか、わかってるか?」

声を荒げられて、ナサニエルは身を竦めた。バーティミアスの瞳には怒りがこもっている。ナサニエルは視線を反らした。

「だからこそ…」
「ふざけるなよ。じゃあ、何故お前は泣いている?」

バーティミアスの言葉に、ナサニエルは頬に手を当てる。そこは濡れていた。はっとして息を飲むと、堰を切ったように涙が溢れてきた。バーティミアスは無言でナサニエルを抱き締める。

「自分を粗末にするな…」

自分を大切に思ってくれるバーティミアスを見て、ナサニエルは闇としか思えなかった人生に光がさした気がした。

「ありがとう、バーティミアス。…ごめん」

バーティミアスは無言だった。
その後すぐに、バーティミアスが呼んでおいてくれたらしい運転手が迎えに来た。家に着いても、二人はずっと手を握りあったままであった。




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