「あの夫婦はそのうち、別れるよ」

 婚姻の儀を執り行う集団を見、乱歩は唐突に言い出した。隣でそれを聞く太宰はにこにこと微笑んで、そうですか、とだけ返す。

「あの新婦の側に恨めしい顔をしたご婦人が居るだろう。彼女が新郎と不倫する筈だよ。いずれ二人は再会し、一夜の契りを交わす。そうして、其れが嫁に知られるというわけだ」
「乱歩さんには、全部お見通しなんですね」

 さすが、と言った太宰は、最近流行りの西洋の花嫁衣装を着た新婦の側を見やる。淡い青色の着物を身に纏った、友人らしき女性の顔を見ると、乱歩の言う通り何とも言えない表情をしている。太宰が何気無く新郎を見ると新郎の視線はその女に移動した。

「でも、御祝いのときに言うことじゃ無いですね」
「今、僕の声が聞こえる所には太宰、君しか居ないじゃない」

 太宰はまた、そうですね、と微笑むと、乱歩を見る。

「永遠になんて言葉が、一番信用ならないね」

 そう呟いて、太宰の肩に――というよりは腕にと言った方が正しい――凭れた乱歩の顔には、いつもの飄々とした笑みは無かった。太宰はその手をこっそりと絡め取ると、嫌がる乱歩をそのままに手を引いて、ずんずんと歩く。

「痛いよ、太宰」
「ああ、すみません、乱歩さん」

 ぐいぐいと引いていた手を、太宰は人気の無い路地で離した。そうして、乱歩の目線に合わせて少し屈むと、その瞼に口付けを落とす。何? と思いきり眉間にシワを寄せた乱歩は、ずいぶんと高い位置にある太宰の顔を見上げた。

「私は、乱歩さんと永遠に一緒に居ようとは言いません。でも」
「ぶーッ。はい、時間切れー。もうお仕舞い」

 乱歩は、太宰の唇を人差し指で押さえると、身を翻して路地から出ていく。

「一生なんて、一緒には居られないよ」

 乱歩の口から吐き出された其の言葉に、太宰は眉を下げた。


叫ぶあなたの本音はどこにあるのだろう
(問うても華麗に躱される)



Title by: 女王さまとヤクザのワルツ



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