求めるものはただひとつ。その他のものは何もいらない。アア、否、甘いものは必要だ。

「あと、君も必要だ」

 乱歩の視線の先には、首と腕に包帯を巻いた男――太宰が居る。それだけ言われた太宰は、きょとんとして乱歩を見返した。

「とても、嬉しいことですが、何の話ですか?」

 太宰の質問に、乱歩は右手の人差し指を唇の前に持ってくる。

「秘密だよ」

 乱歩は、悪戯っ子のように目を細めると、手元の新聞を見た。そして、一面の記事の見出しを見て、5秒から秒読みを始める。

「ゼロ」

 その瞬間、探偵社の電話が鳴った。それを国木田が受けたのを確認して、乱歩は席を立つ。帽子をかぶり直して、太宰の隣に立った。

「電車、乗れないから」

 どういう意味です? と口を開こうとした太宰を、国木田の声が遮る。

「乱歩さん、依頼です」

 はいはーい、と返事をした乱歩は、にたりと笑って、太宰の手を引いて立ち上がらせた。
 求めるものはただひとつ。それは、謎。けれど、謎を解くには甘いものも必要だ。

「あと、電車に乗るのに、君も必要だね」

 そういうことですか、と勝手に納得する太宰に、乱歩はもう一度、君は必要だ、と意味ありげに笑う。
 謎があるから、世界は面白い。そしてその謎には、君も含まれているんだよ、太宰。

世界を面白くするものといったらこれしかない



Title by:女王さまとヤクザのワルツ




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