石畳をかかとを鳴らして歩く。差し始めた日差しに、目を細めた。ロンドンと言えど、夏になればそれなりに日が差す。それも、じりじりと強い日が。風は冷たく、暑すぎるということは無いが、歩くには少し不向きだ。もう一度、空を睨み付けてため息をつく。
「全く、そんな顔してるなよ」
横から声がかかって、そちらを向いた。褐色の青年が、自分を見てしかめ面をしている。
「そんなに暑いか?」
青年に、暑い、と返すと、彼も空を見上げた。
「確かに、日差しは強いな。だが、暑いと言うほどじゃない。ここから、うんと東に行った国では、40度を超えるところもあるんだぞ」
そう言うと、彼は涼しげな表情で振り返る。どうだと言わんばかりの顔に、ふうん、と頷いてやった。どんなに暑い国があろうと、その暑さを体感したことがなく、この暑さが一番暑いと思っている。きっとそのうち、石畳がじゅーじゅー言い出すはずだ。青年を無視して、ウエストミンスター寺院を右に見てから、次の通りを右に曲がる。
「寒いときなら、暖めてやれるんだが、残念ながら、俺は冷やしてはやれない」
わかってる、と言うこともせずに、黙々とひたすら歩いた。こんなにも早く職場に着きたいと思ったのは初めてかもしれない。
「ああ、暑い」
そう呟くと、隣から全くだ、と答える声がきこえた。落ち始めた枯葉を踏みながら、道を歩き続ける。目的地までは、あと少し。
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