くだらない。安っぽい昔の洋画を観ながらため息をついた。隣で同じものを観る須賀は、熱心にそれを観ている。何が面白いのか、と思ったが、手元のメモを見て、ああ、と納得した。

「リメイクでもされんのか」

俺は畳に寝転がりながら、須賀に聞く。うん、と液晶を観たまま、須賀は返した。

「舞台になる」
「へぇ」

俺が返事をしたとき、映画はちょうど、主人公である貴族の男が、町の靴屋の娘と駆け落ちをしようと、変装をして屋敷を抜け出すシーンだった。

「主人公をさせてもらうことになったんだ」

聞いていないことまで、須賀は珍しく喋る。よっぽど嬉しいことなんだろうが、今の俺にはどうでもいい。よかったな、と棒読みで返してやった。須賀はなにも言わない。
主人公は屋敷を抜け出して、町へとやってきた。そして、町の中心の噴水の前で、娘と落ち合う。そして、手を取り合った二人は見つめあって、何も言わずに口付けを交わした。

「君と一緒なら、何もいらない」

愛している、と囁いた男は娘の手を強く握る。ああ、くだらない。想いがあっても、叶わないことだってある。互いに想い合っていても、共にいられないことだってある。須賀の横顔を見上げると、真面目な表情でその場面を見ていた。お伽噺は、どこまで行ってもお伽噺でしかない。俺は何度目かわからないため息をついた。

「つまらない、よな」

上から、すまなそうな声が聞こえて、目を開ける。予想通り、須賀はすまなそうに眉尻を下げていた。

「ああ」

遠慮することもなく、俺は正直に言ってやる。そうか、と須賀は言うと、躊躇いもなく映画を止めた。観てろよ、と言えば、須賀は、観たくないやつに観せたくはない、と言う。

「別にいいのに」

須賀はそれに何も答えない。リモコンをテーブルの上に置いて、メモにペンを走らせる。俺はしばらくその横顔を見ていた。だが、あまりの沈黙に居心地が悪くなり、口を開く。こんなにこいつとの沈黙が苦しいのははじめてだ。

「あの貴族の男か」

俺の質問に、須賀は、ああ、とだけそっけなく答える。それに、ふうん、と返すと、会話はそれで終了した。ため息をついた俺に須賀の手が伸びてくる。それはそっと頬を掠めると、唇に触れた。

「どんな言葉を囁いても、台詞でしかない。想いを込めるのは、お前にだけだ」
「別に、俺は……」

須賀の手を掴んで、横を向く。柔らかく持っていた手が俺から離れて、今度は俺の頬に触れた。

「愛を囁く台詞は、全部お前を想いながらやっている」

恥ずかしげもなく、よく言える。横を向いた顔を須賀の方に向かせられ、少し顎を持ち上げられた。これでどうしても須賀の目を見なければならなくなる。せめてもの抵抗で、視線だけを泳がせた。

「お伽噺はどこまでもお伽噺だ。全てを捨てることなんて、出来やしない」

俺が漏らした呟きに、須賀は静かに目を伏せる。ため息をつくと、俺から手を離した。俺はその手を取って、手首に口付ける。

「想いだけじゃ、どうにもならない」

俺は須賀に手を伸ばした。それに答えるように、須賀は俺を抱き締める。

「想いすらなかったら、進まない。想いがあるから、どうにかなることもあるはずだ」

そう囁いた須賀は俺に唇を寄せた。俺も珍しくそれを甘んじて受ける。お伽噺はどこまで行ってもお伽噺。夢物語でしかない。でも今は、今だけは、お伽噺のような想いに寄り添ってもいいのだろうか。




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