太陽は沈んで、空には星が瞬く。この時間はまだ少し肌寒さは残るが、俺の左手が寒さなんて感じさせない。俺の隣を歩く喜多嶋は、校門から、いや、その前からずっと不機嫌な表情だ。
「今日は何かあったの?」
俺が彼に聞くと、彼は何も言わずにこくりと頷いた。
「嫌なこと?」
続けて聞くと、また彼は首を縦に振る。俺かな? という質問だけには、首をぶんぶんと横に振った。
「なら、どうしたの?」
俺はなるべく静かに聞いてみる。すると、喜多嶋は、はぁっとため息をついてから、口を開いた。
「部活で、失敗して……」
話を聞く限り、どうやら紅白戦をしていたのだが、得点のチャンスで得点できなかったらしい。珍しいこともあるものだ、と俺は喜多嶋の頭を撫でた。これでどうにかなるとか、彼の気分が晴れるとは、全く思っていない。それ以前に、俺には彼の今の思いなんて、理解しようもない。
「明日はきっと、大丈夫だよ」
「加護が言うなら、きっと大丈夫だな」
ぼそっと返された言葉に、思わず喜多嶋を見たが、暗くなっていて表情は見えない。それでも、少しだけ笑っているように見えた。彼の思いを全て理解できるなんて思っていない。でも、彼の隣に居ることだけは許してほしい。
「ああ、保証するよ」
喜多嶋は何も言わないで、俺の左手を握り直した。温もりは、確かにここにある。
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