顔を合わせば睨み合い。口を開けば口喧嘩。拳を握れば魔法がぶつかる。何年も毎日同じことを繰り返していたら、相手を意識しないわけがないわけで。いつの間にか、視線を追うと彼が居るようになっていた。彼が側に居れば、驚くくらいに体温が上がる。それはきっと彼が炎の滅竜魔導士であるからであって、決して彼を意識しているわけではない、と言い聞かせている。だが、思った以上に心臓が素直だった。彼が側に来ると、ばくんと心臓が跳ねる。それはきっと彼と一戦を交えるからであって、決して彼が好きだからではない。俺は氷の入ったグラスを傾けた。
「そんなんじゃ、ない……」
ため息をつきながら、呟きを漏らす。
「どうした? グレイ」
その声に心臓が跳ねた。彼だ。何でもねーよ、と俺はグラスを煽る。顔は見られない。心臓がびっくりするくらい、早く脈打っている。
「何でもないって言うわりには、なーんか浮かない顔してんなー」
覗き込まれて、また心臓がばくばく跳ねる。顔が、近い。何で俺がこんなにこいつを意識しなきゃなんないんだ、と心の中で悪態をついた。
「お前には、関係ねーだろ」
俺はそれだけ言ってやった。そんなの嘘だ。ナツに関係あること、むしろナツのことなのだから。コトンと音をたててグラスを置いた。
「なんだよなー。俺に関係無くても、グレイが浮かない顔してっと、俺もつまんねーんだよ」
むすっと言ったナツは、俺の頭をぽすぽすと撫でる。それだけで、どきどきしてしまって、どうしようもない。俺は深呼吸をした。それでも全く落ち着かない。
「ま、今はいいや。元気になったら、また勝負しようぜ」
ナツはにっこりと太陽みたいな笑顔を弾けさせる。
「あぁ、わかった」
俺はやっとのことで、それだけ返した。ナツのことは好きじゃない。むしろ嫌いだ。俺には無いものを全部持っている。でも、それだけに大切な存在ではある。居なくてはならないような。それでも、きっとまだ全然好きじゃない。そう言い聞かせて、赤くなった顔を俯けた。信じたくないが、たぶんきっと実は、好き、かもしれない。
素直になれないお年頃
意地っ張りな恋/瑠璃
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