夢を、見た。ナツが遠くへ行ってしまう夢。夢の中で俺は、どうすることもできなくて、ただひたすらに名前を呼んで、手を伸ばした。それでも、ナツは振り返りもせずに、俺から離れて行ってしまう。いつかはこんな日が来るのかもしれない。最悪の考えに至ってしまって、深くため息をついた。両目を覆うように、顔に右手を乗せる。じわりと手が湿る感触がした。もしかして、俺は泣いていた? 手の甲で証拠を消し去るように目を拭う。ベッドの上で半身を起こして深呼吸をして、自分に言い聞かせる。最悪の事態は起こらない、と。
しばらく目を閉じて黙っていると、それまで静かだった家に、ドタドタと騒がしい音が聞こえる。

「グレイー? まだ寝てんのか?」

ずかずかと家に上がり込んで来たナツの声が響いた。その声にほっとすると同時に、先程までの不安がよみがえる。涙が溢れそうになって、慌ててベッドを抜けて、玄関に居たナツの胸に飛び込んだ。

「なんだ、起きてたのか」

ぽすぽすとナツが俺の頭を撫でる。

「嫌な夢でも見たのか?」

思わず、ナツのマフラーを掴んだ手に力がこもった。ナツは何も言わずに、優しく頭を撫でてくれる。俺はナツの肩に顔を埋めたまま、声を絞り出した。

「ナツが、居なくなる夢だった」

声が震える。言葉にしたら、本当にそうなるんじゃないかって、思えてくるほどだ。怖くてたまらない。いつかは訪れることなのかも知れないから。

「それ、現実には起きないからな」

そう言って、顔を上げた俺と目が合ったナツは、にっと笑った。

「グレイからは離れられない」

ぎゅうっと苦しいほどに抱き締められる。ナツの高い体温が伝わってきて、ほっとした。夢は、所詮夢でしかない。どんなことが起こっていても、現実で起こることは少ない。ナツは今、ここにいる。俺の側に、ずっと居てくれる。




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