ジャズの流れる、薄暗い店内に二人きり。目の前の男は、彼の同僚の女性にもらったらしい手作りのチョコレートケーキを、満足そうに頬張っている。いい年をした男が、そんな顔をするな。俺はすでに冷めたコーヒーを一気に飲み干した。

「コーヒーには甘いものに限るな」

ほっと一息ついた拓也は、淹れたてのコーヒーをすする。その表情が幸せそうで、だがその幸せな表情を作り出しているのは、俺ではない。自分の中の醜い嫉妬が頭をもたげた。

「拓也、」

俺に呼ばれた拓也が顔を上げる。その唇に自分の唇を押し付けた。目の前で、拓也の表情が変わる。幸せそうな表情をしていたのに、驚いた顔、次に羞恥で少し頬が朱に染まった。だが、それはすぐに少しだけ嬉しそうな表情に変わって、目を閉じる。人前では頼もしく振る舞う彼だが、たまに少しだけ幼くなる。そんなところも、彼の全てがいとおしい。俺は唇を離して、机の下に隠しておいた、白いリボンのかかった赤い包みを取り出した。

「好きだったよな、チョコレートも」

はっとした拓也が、俺の顔と箱を何度も見比べる。困ったような顔をして、唇を開いた。

「並ばないと買えないやつじゃないか」
「前に食べたいと言っていただろ?」

申し訳なさそうに言った拓也に、俺は淡々と返す。それに言い返せなくなったのか、拓也は何も言わない。カップの中に残ったコーヒーが揺れた。

「男からは花を贈るらしいが、拓也はこっちの方が好きだろ」

お湯を火にかけながら、俺は聞く。拓也はこっくりと頷いた。困った顔は、少し幸せそうだ。俺は口角を上げる。

「愛してる、拓也」

カウンター越しに顔を寄せた。拓也の顔があっという間に真っ赤になる。

「甘いものと同じくらいは、好きだ」

目を反らして言われて、思わず笑ってしまった。全てがいとおしくてたまらない。

「素直じゃないな」
「何とでも言え」

箱を拓也に渡して、もう一度唇を重ねる。遠くで水が沸騰する音が聞こえたが、しばらく知らないふりをしておいた。まだしばらくは、熱いままだ。






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