舞台の主人公の役をもらった。素直さ故に、大切な人が離れていってしまう、主人公。自分の気持ちばかり押し付けていたのだ。それに主人公は気が付かない。でも、最後に主人公は、大切な彼女を結婚式にさらいに行く。

「ワタシはアナタを心から愛しています。それでも、ダメなのですか?」

 主人公の言葉に、彼女は寂しそうに首を振った。何故、いけないのかはわからない。彼女は、ごめんなさい、とそれだけ言って、主人公の前から去っていってしまう。そして、その翌日、主人公は彼女が結婚することを知る。主人公は走って式場へ。彼が着いたときには、愛を誓い合う寸前だった。

「迎えに来ました、My princess」

 主人公は自分の過ちに気が付いて、彼女を迎えに行く。そして、彼が彼女を式場から連れ出したところで、舞台は終わる。

「安い内容だな」

 隣で文献を読んでいたカミュが呟いた。

「ありきたりだ」

 この国の者はこういう内容が好きなのだ、と見下したように笑う。カミュはそんなことを言うが、美しい内容だと思う。

「美しいです。素敵な話……」
「くだらん」

 そう言って一蹴されてしまった。どうしてですか、と尋ねると、カミュは一瞬だけ寂しげに目を伏せた。

「どれほど愛していても、叶うことのない想いもあるのだ。互いの心が一つでも、共に居られないこともある。互いが想い合っているだけでは駄目なのだ。国、身分、思想……一つでも違えば、別の世界の人間とされる。愛だけではどうにもならんのだ」
「それなら、ワタシはそれを愛で解決してみせます」

 それが不可能であると言っているのだ、と言われてむっとする。不可能を可能にするのが愛の力ではないのか。セシルは大きく息をすった。

「認められる世界に行けばいい。そうしたら、幸せで居られます。愛する人の幸せが、ワタシの幸せ。そのためなら、なんでもできます」

 セシルが言うと、カミュは本を置いて、まっすぐにセシルを見た。氷のような視線が射抜いて、目が離せなくなる。

「俺と貴様では、まず国が違う。身分が違う。そして、思想が違う。俺は女王に忠誠を誓い、貴様はミューズに魂を捧げる。……違いすぎるのだ」
「でも、心は一つです。想いも同じ。それではダメなのですか?」

 カミュの瞳が揺らいだ。確かに、二人は全て正反対かもしれない。けれど、想いは一つであるはず。

「ワタシは、カミュが好きです。砂漠の砂を、全て集めても足りないほどに」

 手を伸ばしてカミュの手を握ると、逆に抱き寄せられる。

「雪よりも深く、貴様を愛していると、氷より硬く誓おう」
「カミュ……」
「貴様の言葉にほだされるようでは、俺もまだまだ甘いな」

 そう言って微笑んだカミュは、セシルの額に口付けた。それから、髪を撫でで、唇を重ねる。コーヒーを飲んだ後のカミュの唇は甘い。それは、自分だけしか知らないこと、そう思って、セシルは小さく微笑んだ。

「俺は、女王陛下に忠誠を誓っている」

 カミュの瞳がセシルだけを映す。その澄んだ氷の色をした瞳を見つめていると、その瞳が細められた。

「だが、心と愛だけは貴様にくれてやる。世界がそれを阻もうと、俺が貴様を闇からさらってやる。貴様は、大人しくその瞳に俺だけを映していろ」
「Yes. もちろんです。カミュこそ、よそ見をしないでください」
「貴様は馬鹿か。俺が余所見など、するわけなかろう」

 言葉では不器用ではあるが、その言葉の節々に優しさと愛が込められている。セシルはカミュの肩に顔をうずめた。

「大好きです、カミュ」

 返事はなかったが、セシルを抱き締める腕に力がこもった。離れなければ鳴らないときがくるまでは、せめて一緒に居させてください。



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