「すまんな、待たせた」

レインは誰も居ない木に話しかけた。だが、がざりと木の揺れる音がして、人が表れた。むっと難しい表情をしたまま、レインに深々と一礼する。

「で、なんかあったか?ギュンター」

ギュンター、と呼ばれた青年は、表情を変えずに淡々とレインに近況を報告していく。それにレインは頷いたり、時には質問をしたりして、報告を聞いていた。

「うむ。そうか…まぁ、まだ待てるな。もう少し、続けてくれ」
「仰せの通りに」

ギュンターはもう一度、頭を下げる。それを満足気に見てから、ギュンターが居た木にもたれ掛かった。

「お前は頼りになる」
「そう思っていただけているのなら、とても嬉しいです」

表情を変えないまま、ギュンターは答える。

「諜報なんて、気分悪いときもあるよな」
「それが、レイン様の為になるのなら、なんともありません」

淡々と言ったギュンターだが、本心から出たものだろう。レインは少し困ったような表情をしてから微笑んだ。

「俺はそんなにいい人間じゃないぞ?」

決して身長が低いわけではないギュンターの頭をレインが撫でる。ギュンターは一瞬驚いたように大きく目を開いたが、何も言わずに、瞼を閉じた。

「レイン様がご自身のことをどう思っていようと、私にはレイン様しか居りません」

ギュンターのきっぱりとした口調に、思わずレインの背筋が伸びる。頭を撫でていた手も止まり、ギュンターの肩までおりた。レインは少しだけ屈むと、ギュンターの頬に唇を寄せる。

「レイン、様……」
「ほどほどに、な?ギュンター」

はっ、と短い返事をして、ギュンターは深々と頭を提げた。レインは、頼むな、と片手をひらひらと振って、その場に背を向ける。そこに残されたギュンターは、いつものむっとした表情に戻っていた。







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