「元気だった?」

後ろから聞こえる、軽い口調の声。俺は振り返った。

「ろ、き…」

俺が名前を呼ぶと、ロキはへらりと表情を崩す。

「やだなぁ、そんな顔しないでよ。可愛い顔が、台無し」

そう言いながら、ロキは俺の眉間を指で押した。泣きそうだった。会いたかった。本当は毎日だって会いたい。抱き締めて欲しい。でも、それは叶わないことだってこともわかってる。俺は伸ばしかけた手を引っ込めた。

「可愛くなんかない」

俺は叶えられない望みを、どうしたら叶えられるか考えている。そのために、何を犠牲にしてもかまわない、と思っている。そんな思考を持っている人間の、どこが可愛いのか。ふと見上げたロキの顔が悲しげに笑っていることに気が付いた。

「抱き締めて欲しいのなら、言えばいいのに」

伸ばすのを躊躇った手を引かれて、俺はロキに抱き締められる。優しくて暖かい。それは、彼が星霊だと知る前から知っているぬくもりだった。

「グレイは、いつも我慢しすぎ。素直にならないと、ダメだよ?」

くすりと笑う声が聞こえて、俺は真っ赤になる。素直になることができたら、こんなになってない。こんなに我慢もしていない。俺がわがままを言って困るのはロキだ。

「俺は、いい。お前と居られる一瞬が大切だから」
「可愛いことを言ってくれるね」

頭を撫でられて、額にキスを落とされる。それからロキは空を見上げて、小さな声で、時間だね、と呟いた。

「大好きだよ、グレイ。愛してる」
「お前はいちいち恥ずかしいんだよ、ばかっ」

俺が俯いて言うと、ロキは嬉しそうに笑う。

「また、ね…グレイ」
「おう。またな…」

あっという間の時間。ロキの体がきらきらと輝いてから消えた。枯れが居た場所をしばらく見つめてから、俺はその場に背中を向けた。次に会えるのはいつだろうか。次は素直にわがままを言ってみるか。心とは反対に晴れ渡る空を見上げて、笑みをこぼした。







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