だいぶ肌寒くなってきて、空気も乾燥してきた。だが、大臣室にこもっているため、あまり気にならない。珍しくたまっていた書類を早めに片付けることが出来て、椅子の上で伸びをする。片付いた机に突っ伏して、目を閉じた。しばらくそのままでいると、扉を叩く音が聴こえる。どうぞ、と返事をするとゆっくりと扉が開いた。
「終わったのか? 今日はずいぶんと早いな。槍でも降るのか?」
「うるさいぞ、バーティミアス」
声だけで誰だか判断したナサニエルは、突っ伏したまま言う。
「……で、何の用事だ?」
今度は少し顔を上げて、バーティミアスを見ながら聞いた。バーティミアスはにやりと笑ってナサニエルの隣に並ぶ。ナサニエルが首を傾げると、バーティミアスは屈んでナサニエルに顔を寄せた。
「お前に会いに来ただけだが? ……ん。キス、するぞ」
「は? 突然、そんな……っん」
バーティミアスの突然の申し出に、驚いて身体を起こしたナサニエルに、バーティミアスはすかさず唇を重ねる。バーティミアスの舌が唇をなぞって、反射的に唇を割ったが、それ以上は入って来ない。散々唇をなめられて、やっと離された。
「っは、何のつもりだ、バーティミアス!」
「何だ? 足りなかったか?」
「ちっ、違うっ!」
ニヤニヤと笑うバーティミアスに必死に反論するが、顔が熱い。ナサニエルは顔を手で扇いで、バーティミアスに背を向ける。
「ナサニエル、」
さっきまでとは違う、静かな声で呼ばれて振り返った。まじめな顔のバーティミアスが目の前に居て、ナサニエルはぎゅっと目をつぶる。唇にふにゃりとした感覚と、それが左右に動かされる感覚に、恐る恐る目を開けた。
「おまえ、唇がっさがさだぞ」
そう言ったバーティミアスに握らされたものはリップクリームだった。
「何で、こんなもの……」
「これくらいのケアはしろよな。それも身だしなみの一部だぞ?」
そう言うと、バーティミアスはナサニエルにウインクを一つ飛ばす。 羞恥と照れで顔が真っ赤になった。
「書類、さっさと出して来ちまえよ」
「出してくるつもりだよ」
むっと言ったナサニエルは書類の山を抱える。俺が持つ、と伸びてきたバーティミアスの手を拒んだ。
「一人で出来る」
「全く、可愛くないな」
「可愛くなくて、けっこう」
ツンとして言ってから、、ナサニエルはバーティミアスの頬に自分の唇を寄せた。すぐに離して、書類を抱えたまま扉を開ける。背中では、バーティミアスが、ばか、と小さく呟く声が聞こえた。
ついったでの、スーパーリクエストタイムより。
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