冷たい部屋の中で、俺とフェイキアールは向かい合った。フェイキアールの視線も冷たい。俺は何度か瞬きをした。
「何故、お前はそこまでするのだ?」
フェイキアールが低い声で言う。俺は首をすくめた。
「命令だからだ。そういうもんだろ」
俺が言うと、フェイキアールは首を横に振る。どうやら、フェイキアールはそういう形式的なことを尋ねているわけではないらしい。まぁ、正直、奴が聞きたいことの意味は分かっている。
「あいつは、お前の主人とは違う。何かがな。俺も、今のお前とは違う」
俺は静かに言った。フェイキアールの表情が泣きそうに歪む。
「バーティミアス、何故お前はあの人間を守ろうとする?」
「もう、目の前で誰かを失いたくないからだ」
「何故、どうしてだ? 人間など、この世にはいくらでもいる。私たちをこき使おうとしか考えていない奴らだぞ?」
「あぁ、もちろん分かっている」
俺ははっきりと断言してから、でも、と続けた。
「奴は今のお前よりもよっぽどまともな考えを持っている」
俺の言葉に、フェイキアールはあからさまに嫌そうな顔をする。俺はフェイキアールから視線をそらした。生温い空気が成分を撫でる。
「もう、戻ることは出来ないのだ」
フェイキアールは寂しげに笑った。俺は何も言わない。今の俺にはフェイキアールの考えていることが分からなかった。
「おしまいだ、バーティミアス」
フェイキアールのその言葉は、フェイキアール自身にも向けられているような気がした。
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