俺は、名前を呼ぶ声を聞いた。暗闇だらけの異世界で、凛とした澄んだ声。ありえないことはわかっている。だが、どこかでまた会えるのではないか、と思ってしまう。左右を見回しても星空のような闇が広がるばかり。俺は無意識に肩を落としていた。過去にすがりついていても、自分自身が過去に戻ることは出来ない。そんなことくらいわかっている。戻りたくても、戻ることは出来ないのだ。それでも、ときどき振り返ってしまう。振り返ったところで、あの頃には何も戻りやしない。あのときああすればよかった、という悔いも、もう後悔でしかない。もし、あの頃に戻ることが出来たとしたら、俺はどうするだろうか。きっと、過去を書きかえるだろう。そうしたら、今と同じ後悔をしている自分はいないだろう。だが、そうなったとしたら、今の俺はここに存在していない。俺ではない、俺だっただろう。今の自分が存在しているのは、あの過去があるから。過去を消し去ることは出来ないから、俺はそれを乗り越えなくちゃならない。過去を振り返ることもあるとは思うが、今となっては残念だがどうすることも出来ない。俺は今、ここにいるのだから。俺はどこかでもう一度名前を呼ぶ声を聞いた。その声は、俺の背中を押してくれるような、優しい声だった。




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