「パイパー、お茶を淹れてくれるかな」

大臣に言われて、私は給湯室に飛び込んだ。ドアに背中を押し付けて、胸に手を当てる。大臣に話しかけられただけなのに、心臓がばくばくしている。深呼吸をして、落ち着いてから、ダージリンの缶を手に取った。ポットを暖めてから、茶葉を入れて、お湯を注ぐ。湯気が部屋に広がった。大臣と言葉を交わせる人はごくわずか。その内の一人になれることは、すごく光栄なことで、女の子はみんなその場所につきたいと願っている。プライベートの話はほとんどしたことがないけれど、それはそれほど重要なことではない。大臣に声をかけてもらえるだけでも嬉しいのに、名前を呼んでもらえるなんて、それ以上のことは望めない。大臣のことをなんとも思っていない人からしたら、どうでもいいことかもしれないけれど、私にとってはとっても大事なこと。天気がいいね、とか、今日は寒いね、とか、それだけでもかまわない。話しかけられる、ということは、私だけに意識が向けられるということ。私はポットとカップをおぼんに乗せると、給湯室をあとにした。

「紅茶でよろしいですか?」
「あぁ、ありがとう」

大臣の目の前でカップに紅茶を注ぐ。緊張で震える手で差し出すと、にっこりと微笑まれた。どきっと心臓が大きくはねる。

「君の淹れる紅茶は、いつも美味しい」

ひとくち紅茶を飲んだ大臣が、赤く揺れる水面を見ながら言った。私は言葉を探してしまう。

「あっ、ありがとうございますっ」

やっと言えたのはそれだけ。普通の人とだったら、もう少しいい返事が出来るのに、と何度目かの後悔。この程度のこと、と言う人もいるだろう。でも、私にとっては幸せなことで、道行く人の愛しているの言葉よりも大切なもの。私は心臓が早まるのを感じた。







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