心臓を掴んで揺すられるような感覚に陥った。傷を抉られるような気分。夢ならば、早く覚めて欲しい。だが、今が夢なのか、現実なのかも分からない。目を閉じていても、開けていても真っ暗闇。たった一人で暗闇に居た。自分はいつだって一人だ。ナサニエルは嘆息する。暗闇は晴れない。自分は本当に存在していていいのか。もう何度も繰り返した問いかけをもう一度する。自分の代わりなど、いくらでも居るだろう。心から自分を必要とし、愛してくれることなど――。ぼーっと伸ばした手の輪郭が浮き上がった。視線を下げると、足の輪郭もなんとなく見えてくる。目が慣れてきたのか、と遠くを見た。だが、暗闇が続くだけで、自分の姿以外何も見えない。やっぱり、独りなのだ。目を閉じて、孤独に身を委ねる。自分は必要ではないのか。いつも独りで取り残される。あの日から、ずっと……。必要なのは、私の能力であって、僕自身ではない。そんなことなら、代わりはいくらでも居る。僕が消えても誰も困りはしないだろう。そこまで考えたところで、遠くから誰かの声が聞こえた。気のせいか、とも思ったが、その声は次第に大きくなり、何を言っているかも聞き取ることが出来るまでになった。
 
「ナサニエルっ!」
 
呼ばれている、僕自身が。はっと顔を上げると、腕を掴まれて、抱きしめられる。息が出来ないほどきつく抱き締められて、小さく喘いだ。
 
「俺にはお前が必要だ。ナサニエルが必要なんだ……」
「バーティミアス……」
 
暗闇に閉ざされていた世界が、突如光に包まれた。自分を暗闇から連れ出してくれたバーティミアスの優しい笑顔が視界に飛び込んでくる。自分は誰にも必要とされていないのだと思っていた。だが、バーティミアスはそんな自分を必要だと言ってくれた。優しく触れられて、存在を確かめるように、キスを落とされる。
 
「僕は、何のために、存在すればいい?」
「俺のために、存在すればいい。俺がお前を必要としている。お前は、独りじゃない」
 
バーティミアスの言葉に心が軽くなった。ナサニエルを柔らかな温もりが包んで、閉ざされていた心を溶かしていく。
 
「僕は、ここに居る。僕を、見失わないでくれ」
 
ゆっくりと確かめるように呟いたナサニエルの手を、バーティミアスが繋ぎなおした。
 
「約束しよう」
 
そう言ったバーティミアスはナサニエルの手の甲に口付ける。もう、迷う必要は無い。ナサニエルは、バーティミアスと繋いだ手に力を込めた。
 



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