砂丘のてっぺんから辺りを見回す。よし。異常なしだ。俺はその場に座った。同じように、俺の隣には腹回りがでっぷりしたおっさんが座る。
「フェイキアール、お前はもっと見た目をどうにかしようと思わないのか」
ため息混じりに俺が言うと、フェイキアールはふんと鼻を鳴らした。
「見た目にこだわったところで、中身が変わるわけではない」
フェイキアールの言うことは正しい。どんな見た目になろうが、俺たちの性格が変わるわけではない。まぁ、俺としては、だからこそ見た目にはこだわりたいと思うのだが、フェイキアールにそんなことを言ったところで、理解は出来ないだろう。
「お前は、どんな見た目が好みなんだ?」
そう言ったフェイキアールを見ると、やつには珍しい見目麗しい青年になっていた。
「何だよ、突然…」
「お前は見た目にこだわっているだろう。美しい方が好みなのかと思ったのだ」
にたりと笑ったフェイキアールの手が俺に伸びてくる。俺はその手を握った。
「別に、お前の見た目はどうでもいい。俺がこだわってるだけだ」
フェイキアールの目が細められる。俺はフェイキアールを見たまま続けた。
「見た目がどうであれ、問題はお前かどうかってことだ」
俺はフェイキアールの瞳の奥を見つめる。ゆらりと炎が揺らめいた。俺は握っていたフェイキアールの手を離す。
「私たちは見た目に惑わされるわけにはいかないからな」
フェイキアールが俺の手を掴んで、その甲に口付けた。フェイキアールらしくないことに、俺は身動ぎする。
「私たちは、常に何かを演じているのだ。ほんらいの私が存在出来るのはお前の前だけだ、バーティミアス」
「そんなことくらい、わかってる」
俺は素っ気なく返した。俺たちは何かを演じなければ、命令に従えないこともある。ありのままの自分でいただけに、命を落とすことだって考えられる。だが、俺たちは自らの心に忠実に生きる。
「俺たちは砂漠の砂のようだな」
「突然、何だ」
宙を仰いだ俺に、フェイキアールは眉間にシワを寄せた。首を傾げるフェイキアールを見てから、俺はもう一度空を見る。
「だってそうだろう?かためて形を作れば何にでもなれる。あっという間に崩れるが、すぐにまた別のものに作り替えることが出来る。だが、本質的なものは変えられない。砂は砂のまま。残念ながら、水にはなれない」
そういうことだ、と言えば、フェイキアールも、そういうことか、と理解したようだった。どんな手を加えても、俺の本質は変えられない。
「腹が出ていようがいまいが、お前はお前だ、フェイキアール」
「当然だ」
髪を撫でられて、頬にキスをされた。それは俺自身が受け入れている。姿を変えることで壁を作ることもある。だが、今はその必要は無い。
「フェイキアール、」
俺はフェイキアールを呼んだ。青い空に、いくつかの雲のかたまりが浮かんでいた。
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