すっかり夜も更けてしまってから、自室に帰る。小声で、ただいま帰りました、と呼び掛けてみるが、返事はない。当然ながら、部屋の電気は全て消えて、静まりかえっている。カミュは怒っているのだろう。明日の朝にこっぴどく叱られるだろうと思いながら、両手の紙袋を床に置いて、玄関で靴を脱いだ。今日は誕生日とハロウィンだったため、いろんな人に捕まってしまった。知り合いで会っていないのはカミュだけかもしれないほど、知り合いという知り合いに声をかけてもらった。抱えきれないほどのプレゼントと、おめでとうの言葉をこれほど多くの人にもらったのは、生まれて初めてのことかもしれない。セシルは深呼吸をしてから、リビングのドアを開いた。

「遅いっ」
「うみゃっ?!」

暗闇だった部屋が突然明るくなり、カミュの声が響く。驚きのあまり、思わず飛び退いた。

「貴様はこんな遅くまでどこをほっつき歩いているのだ。もっと早くは帰れなかったのか?」

カミュの鋭い剣幕に小声で、すみません、と返すことしか出来ない。縮こまっていると、両手の紙袋をひったくられた。

「なっ、何をするんですか!」
「先に風呂に入ってこい」

どんと背中を押されて、抗議しようと振り返ったが、カミュの姿はキッチンに消えていた。しばらくその場に突っ立っていたが、仕方なくカミュの言葉に従うことにした。
風呂から上がると、むすっとした表情のカミュがソファに座って、コーヒーを飲んでいる。テーブルを見ると、猫の形をしたケーキが乗っていた。

「カミュ。あの、お風呂、上がりました」
「見たらわかる。…座れ」

低い声で言われて、カミュの正面の椅子に座る。しばらく二人とも言葉も交わさずにじっとしていたが、しびれを切らしたらしいカミュが、ずるずるとケーキの皿をこちらに押した。首を傾げると、カミュは決まり悪そうに咳払いをする。

「何故この俺が貴様のような愚民の誕生日を祝わねばならんのか、理解に苦しむが、誕生日は大切な日らしいな。仕方ないから、一緒に居る俺が祝ってやる」

カミュの最大の優しさを感じて、セシルは微笑んだ。上からの発言ではあるが、カミュの本心だ。不器用で厳しいけれど、本当は優しいことを知っている。

「ありがとうございます、カミュ。ワタシはとても嬉しいです」
「当然だ」

カミュはふんと鼻を鳴らして言った。セシルが笑みを浮かべると、困ったように眉を寄せる。視線をさまよわせた後、静かに唇を開いた。

「愛島、こっちへこい」

カミュの隣を示されて、セシルは腰を浮かせる。少し離れて座ると、もっと寄れ、と怒られる。少し寄ると、カミュは満足そうに頷いた。

「あの…何ですか?」
「今日は貴様の誕生日でもあるが、ハロウィンとやらでもあるな」

そうです、とセシルが答えると、カミュが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

「Trick or Treat」

目を細めて言われて、一瞬だけきょとんとした。だが、すぐに意味を理解してポケットを探るが、当然何も出てこない。

「カミュはイジワルです。ワタシが何も持っていないことくらい、わかっているはずです」
「わかっていて聞くのが面白いのだ」

あっさりと言ってのけたカミュは、セシルの肩を抱き寄せた。あまりの自然な動作に、セシルも文句を言えない。すとんと横を向いたカミュの胸に収まってしまう。

「イタズラを選ぶのだな?」
「選びたくはありませんが、しかたないです」

セシルはむっと頬を膨らませた。

「ヤクソクはヤクソクです」
「そうか」

呟いたカミュの視線が甘くなる。カミュの白い指が、セシルの頬をなぞって髪をすいた。二人の視線は絡んで離れない。

「…だが、先にケーキを片付けるとするか。切れ、愛島」
「はい」

可愛らしいケーキに包丁を入れるのは少し気か引けたが、こればかりは仕方ない。そっと包丁を差し込む。中には宝石のようなフルーツがたっぷり入っていた。

「Excellent!!とても美味しそうです!」

二人ぶんのお皿に取り分ける。カミュも心なしか嬉しそうだ。

「うむ。美味そうだな」
「Yes!食べましょう、カミュ!」

フォークを持ったところで、今度は頬に口付けられる。カミュを見ると微笑んでいる。

「誕生日おめでとう、愛島」
「ありがとう、ございます…」

セシルはフォークをテーブルに置いた。そして、カミュに抱き付く。この、素晴らしき日に感謝を。唇を重ねると、さまざまな思い出がよみがえる。その全てが今日という日に繋がっているのだ。この日があるから、今、自分はここに居る。アナタと共に居られることのシアワセを。


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セシルお誕生日おめでとう!
ハッピーハロウィン!



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