家の外を可笑しな格好をした子供がわたわたと駆けていく。
「Trick or treat!!」
扉を叩いてはそう叫んで、ジャコランタンに菓子をたんまり入れて帰る。とうとううちにもやって来た。扉を叩く音がして、俺は戸を開く。
「Trick or treat!!」
子供の甲高い声が響いた。ほらよ、と俺はそれぞれのバケツの中に、あめ玉を放り込んでやる。
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
「おう。Happy Halloween」
お兄ちゃん、と呼ばれたことに苦笑しつつ、片手を挙げて、子供たちに答えてやった。全く賑やかだ。パタパタと駆けていく後ろ姿を見送ってから、俺は戸を閉める。
「で、お前は仕事か。熱心だなぁ、マンドレイク大臣?」
リビングに戻ってナサニエルを見た俺は、鼻で笑って言ってやった。当のナサニエルはちょっと俺を見ただけで、すぐに視線を机の上の書類に戻す。全くはりあいがない。だがまぁ、それだけ切羽詰まっているのだろう。
「ハロウィンなんて、関係ない。仕事は待ってくれないからな」
ナサニエルはため息まじりに呟いた。たぶん、この何年か小僧はハロウィンを味わっていないんじゃないかと思う。毎年仕事仕事と言って、イベントというイベントはことごとく仕事に費やしているのではないかと思うほどだ。仕事熱心にもほどがある。俺は大きく息を吐いてから、ナサニエルの傍に寄った。
「Trick or Treat...」
すぐ隣で囁いた俺を、ぽかんとした表情のナサニエルが見上げる。
「だから、菓子かイタズラか、と聞いてるんだよ」
俺が聞き直すと、ナサニエルは無言でポケットに手を突っ込んだり、自分の周囲をあさりだした。だが、めぼしいものが見付からなかったのか、俺を見て少し躊躇った様子をみせてから、襟を引っ張られた。
「へ?」
頬にふにゃりとした感覚的があったが、それはすぐに離れる。一瞬、何が起こったかわからなくて、俺はナサニエルを見た。小僧の顔は真っ赤だ。
「お菓子なんて、持ってなかったから。仕事を、再開する…」
ぶっきらぼうにそう言って、ナサニエルはペンを持ち変える。全く、可愛くないヤツだな。俺はにやりとした。
「まだ、菓子としての対価には足りないんだが?」
俺の言葉にナサニエルがはっと顔を上げる。そして、大きなため息まじりにつくと、持っていたペンを置いた。
「どう、したらいい?」
「俺に言わせるのか?」
にっと口角を上げると、ナサニエルはむっとしながらも、椅子から少し腰を浮かす。
「続きは、仕事の後だからな」
「イタズラを選ぶのか?」
「違う。イタズラは無しだぞ」
「残念ながら、保証は出来ない」
俺はナサニエルを抱き寄せた。唇に噛みついてやると、身を寄せてくる。イタズラをしない保証なんて出来るわけがない。この可愛い魔法使いは、悪魔よりもよっぽどタチが悪いような気がする。
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