我らがご主人、カーバは椅子に座って、何やらしている。もちろん、俺たちは仕事だ。岩を切り出して磨いて、なんて仕事は同じ作業ばかりで飽きる。俺は、下に居るフェイキアールに小声で声をかけた。

「なぁ、フェイキアール」
「なんだ」

フェイキアールは俺を見上げて顔をしかめる。全く、俺様を見て顔をしかめるとはいい度胸だ。

「なんだよ、その顔は」
「この角度からだと、お前の腰布の中身が丸見えだ。仕事中はよせ、私にだって我慢できないことの一つや二つはある」

そう言われて、急に顔に熱が集まる。

「バーティミアス、お前はそんなことを言うために私を呼んだのか?」

腕組みをしたフェイキアールに下から睨まれて、俺は横に首を振った。俺だって暇じゃない。

「いや、ただ、お前と話をしたかっただけだ。深い意味はない」

フェイキアールがにたりと笑う。俺は嫌な予感がして、あわてて、それだけだ、と付け加えた。

「ずいぶんと可愛らしいことを言ってくれるな、バーティミアス。少し、降りてきたらどうだ?」

手招きをされて、ひょいと一段石を飛び降りる。フェイキアールの傍に少し寄ると、突然腕を引き寄せられて、体勢を崩した俺はフェイキアールの胸に飛び込む形になってしまった。

「ふぇ、フェイキアール…!?」
「話したい、とそう言っただろう?」

そう言うとフェイキアールは俺の顎をなぞって持ち上げる。一瞬、カーバの方を振り返ってから、俺にキスを落とした。

「ん……っ!?」

驚いて目を見開くと、にこやかなフェイキアールと目が合う。全く、フェイキアールは何をしたいんだ?悶々と考えていたが、次第に意識がふわふわとして、思考が巡らなくなってくる。頭をがっしりホールドされてるため、逃げるにも逃げられない。抵抗しても無駄だと思った俺は、とうとう折れてしまった。ちらりと横目でカーバを見ると、こちらに気付く気配もない。だが、影が小刻みに震えている。何故だ、と考えていたら、余所見をするなと言わんばかりに、フェイキアールが俺の唇を甘噛みした。予想外のことに、俺の思考が中断される。俺がフェイキアールを見ると、やつは満足そうにニヤリと目を細めた。俺はゆっくり目を閉じる。しばらくの間、フェイキアールに身を任せてもいいかもしれないと思ってしまった。

「おい!」

突然背中から声がかかって、俺は目を開けた。フェイキアールの肩を押して離れようとするが、やつの手にそれを阻まれる。たぶん、ホスロエスの声だった。だいぶ覚めてきたが、半分溶かされたような脳ではきちんと理解は出来ない。後ろでは、俺達を見て困ったのか、石の上で何度か足踏みのようなことをする音がする。

「あー、その、あぁ、あとでいい。邪魔したな」

そう言ったホスロエスが、すぐに引き返す音がした。その間もずっとフェイキアールと重なったまま。つい、小さく吐息が漏れてしまう。だが、抗議も出来ずに身を任せてしまっている俺も俺だ。俺はちらりとカーバの方を見る。

「んむっ…!? っ、は……」

カーバを見て驚いたのと、フェイキアールに上顎を舌でなぞられて、声があがってしまった。とりあえず、カーバの影がズルズルと小刻みに震えながら、こちらに伸びて来ている。俺はそれを知らせようと、フェイキアールの腕に爪を立てた。だが、どうやらフェイキアールには伝わらなかったらしい。フェイキアールの指が俺の脇腹をなぞった。その間もじわじわと影が近付いてくる。

「はふっ、」

余所見をしていたら、フェイキアールの手が俺の内腿を撫でた。フェイキアールを見ると、少しムッとしたような目をしている。俺は漏れる声を押さえるのに必死だ。でも、影のことも気になる。ちらりと影の方を見ると、すんでのところまで迫ってきている。俺はフェイキアールを見上げた。

「私がわからないわけがあるまい」

フェイキアールは唇を離すと、ニヤリと笑って影を振り返る。すると、影はすぐにすごすごと下がって行った。

「フェイキアールっ」
「なんだ?」

涼しげな顔で、フェイキアールは俺を見る。俺は一歩フェイキアールに詰め寄った。

「お前!ホスロエスにも見られたし、危なかったし、わかってたなら離せば良かっただろう!」

俺が睨み付けても、フェイキアールは涼しげな表情のままだ。まったく、何を考えてるのかわからない。いや、わかりたくもない。

「そう言うお前も離してほしくないようだったが?バーティミアス。私を押し退ければ良かったのだ」

けろりと言うと、俺を抱き締めて、カーバの方を振り返った。

「敵に牽制しておくことも必要だ」

フェイキアールがにぃっと口角をあげると、影が震える。俺にはフェイキアールの言っている意味が理解できないが、まぁいい、と思ってしまった。フェイキアールは俺の額にキスを落とすと、休憩は終わりだ、と俺の背中を押す。俺は言われるがままに、作業に戻った。後ろを振り返るとフェイキアールは何事もなかったように作業をしている。まったく、わからないやつだ。小さく呟いて、俺は微笑んだ。





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