こんなところで立ち止まっていてはいけないと思うのに、足が進まない。やっと足を持ち上げられても、うずくまりたい衝動にかられる。
後ろ指を指されるのも、他人に嘲笑されるのも慣れている。だが、たったひとりだけの空間には慣れない。他人にどう思われようと、ひとりではなかったから乗りきることが出来たのだ。右を見ても左を見ても、誰も居ない。ひとりだ。ナサニエルはうずくまった。どうしようもない恐怖と不安に押し潰されそうになる。ゆっくりと闇が迫ってくる。どくどくと心臓が早く脈打つ。頬を涙が伝った。

「ナサニエルっ」

遠くで自分を呼ぶ声が聞こえた。ナサニエルは顔をあげる。しかし、どこを見ても闇が続くばかり。

「ナサニエル!」

さっきよりも近い。だが、誰が呼んでいるのか。記憶喪失になったかのように、大切なことがぽっかりと消えてしまった気がする。ナサニエルは、誰?とかすれる声でたずねた。

「俺だ!バーティミアスさまだ!ウルクのバーティミアス!ジン族のサカル!強者ヌゴーソにして、銀の翼を持つヘビ!」

ナサニエルは遠くに一筋の光を見た。他人に何を言われようと我慢できたのは彼が居たから。バーティミアスが居てくれたから。ナサニエルは光に向かって駆け出した。
光に手が届いたと同時に、いつもの朝の景色が目の前に飛び込んでくる。見慣れた天井。電気。バーティミアス。

「やっと起きたか、ナサニエル。ずいぶんうなされてたぞ?」

そう言って、バーティミアスに心配そうに除きこまれた。顔を触ると頬が濡れている。

「泣いてたからな」

バーティミアスの親指がナサニエルの涙を拭った。

「大丈夫。俺が居る。いつでも俺がお前を呼んでやる」

バーティミアスに抱き締められて、ナサニエルはぼろぼろと涙をこぼした。今度は恐怖と不安に対してではない。光の優しさに、涙が落ちた。




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