闇夜に雫がきらめく。こんな表情はさせたくなかった。俺は、ずっと太陽みたいに笑っていて欲しいと思っていた。
「僕は、居ても居なくても同じだよ」
濃紺の星空を見上げたプトレマイオスは静かな声で言う。その声はあまりにも穏やかだった。そんなことはない、と言おうとした俺は、声を飲み込んでしまう。
「僕は…本当にここに居ていいのかな…」
プトレマイオスは、今にも飛び出してしまいそうなほど窓から身を乗り出した。俺は何も言わずに、そのそばに寄り添った。でも、触れることだけはしなかった。今、触れたら、プトレマイオスが壊れてしまいそうな気がしたから。俺は小さく息を吸う。
「僕の居場所は、何処なのだろう」
ため息と一緒に吐き出されたその言葉と同時に、プトレマイオスが窓から落ちた。プトレマイオスがどんどん俺から離れる。俺は、プトレマイオスがこのまま消えてしまうような気がして、慌てて背中に翼を生やした。
「プトレマイオスっっ!」
窓から飛び出して、手を伸ばす。かろうじて俺の手をプトレマイオスが繋ぎ返した。俺はその手を引いて、か細い体を抱き締めた。
「お前が、居なくなるかと思った…」
絞り出した声はかすれている。
「お前さんの居場所はここだ。ここに居ていい。お前さんがどこかに消えたら…俺が困る」
そっと背中を撫でると、弱い力で抱き締め返された。そのことに安心した俺は息を吐いた。
「もう泣かせたりしない。どこにも行かせたりもしない。お前さんの涙は俺がぬぐってやる」
「ありがとう、レカイト…」
その返事を聞いて、俺はプトレマイオスの髪を撫でる。この温もりは、 絶対に消させやしない。俺が、そばに居る限り。
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