俺は、ふわりと宙に身を投げた。城の門のてっぺんから。思っていたよりも、ずっと高い。俺は羽を広げた。途端に急降下が緩まり、なだらかに落下を始める。俺は何もせず、なされるがままに身を任せた。風が火照った肌をそっと撫でる。目を閉じると、異世界に戻ったような感覚に陥った。このまま、この時間が続けばいいとも思ったが、そういうわけにもいかないだろう。だが、俺は束の間の優しい時間に思いを馳せた。

「何をしている、バーティミアス」

何かに受け止められるような感覚がして、俺は目を開けた。視界いっぱいにフェイキアールの顔が飛び込んでくる。

「何って、特に何をしていたわけでもないが。…とりあえず、おろせよ」

俺は横抱きにされたまま、フェイキアールに文句をぶつけた。だが、俺の声が聞こえなかったかのように、フェイキアールは涼しげな表情を浮かべたまま、宙を仰ぐ。

「まさか、この暑い日に天使が降ってくるとは思いもしなかった」
「そんな台詞、ゾッとする。熱に浮かされてるのか?」

太陽の光に目を細めたフェイキアールに俺は言ってやった。全くそんな台詞気持ちが悪いったらない。

「それに、俺は天使じゃない。偉大なるジン、ウルクのバーティミアス様だ」

フェイキアールの腕の中でふんぞりかえる。だが、落ちそうになって、俺はあわててフェイキアールの首に腕を回してしまった。

「ほう、まだ私の腕の中に居たいのか?」
「ふざけんなっ!これは、その…」
「その、何だ?」

にやにやと俺に顔を寄せてくるフェイキアールを無理やり押し退けようとするが、体勢が崩れているため、うまく力が入らない。あっという間に、唇すれすれまでの距離まで縮められてしまう。俺は目を閉じた。

「え?」

何も起きない。俺はおそるおそる目を開けてみる。変わらない距離に居るフェイキアールが見えた。

「何を期待している?バーティミアス」
「なっ!?期待なんかしてない!」

どうだろうな、と微笑んだフェイキアールに今度こそ唇を奪われる。

「何するんだよっ」
「バーティミアス、お前もそれを望んでいただろう?」

反論出来ないような口調で言われて、俺は黙った。というより、図星だ。俺はフェイキアールの肩に顔を埋めた。

「誰かに見られていたら、どうするつもりだよ」
「別に、隠すつもりはない」

俺は思わず顔をあげる。フェイキアールの横顔は涼しげだ。

「太陽も月も星も、私たちを知っている。隠しようが無いのだ。それに…」

フェイキアールはそこで言葉を切って、俺の額に口付ける。目が合うと、微笑まれて、俺は視線をそらした。

「堕ちるときは、私たち二人一緒だ」

俺はフェイキアールの顔を見られなかった。だが、穏やかな声から、たぶんやつは笑っていた。






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