誰も居ない砂漠を、何者かが通過するまで、ひたすら見つめ続けるという、暇で仕方のない命令。そして、俺の隣にはフェイキアール。最悪なことこの上ない。しかも、二人きりときた。これ以上の不幸は無いだろう。俺は座ったまま、自分の膝小僧を抱き寄せた。
「こんなことしてて、意味あるのか?」
俺は正面を見たまま、口を開く。
「私たちに今まで意味のある命令を出した、素晴らしき主人など居たことがあったか?」
質問に質問で返されたが、俺には言い返す言葉が見つからなかった。遠くを見ていても、何も現れる気配がない。何か現れてくれたら、気分転換も出来るが、そう簡単にはいかないようだ。
「暇だ…」
俺は膝小僧に顔を押し付けた。日差しがジリジリと暑い。
「この場を動かずに、かつ命令を破らず、暇を潰せることって無いのか?」
顔を埋めたままの俺のぼやきに、フェイキアールは何も答えない。当然か、と俺はため息を一つつく。俺はしばらく瞑想にふけることにした。
「ひゃ、んっ…!?」
だが、俺のしばしの休息はフェイキアールによって遮られた。うなじにキスをするとか反則だろう。しかも、だいぶ変な声が出てしまった。最悪だ。
「ほう、だいぶいい声で鳴くじゃないか」
楽しそうに目を細めたフェイキアールは、にやにやと笑って俺を見つめている。
「ふざけっ……ッ!?」
ふざけんな、という俺の言葉はフェイキアールの唇に塞がれる。こっちだってやられてばっかりでは気が済まない、と思った俺は、当然のごとく滑り込んできたフェイキアールの舌をおもいっきり噛んでやった。フェイキアールは眉間にシワを寄せて、顔をしかめる。
「っ、痛いだろう」
「自業自得だ」
そう言ってそっぽを向くと、肩を引き寄せられた。
「さっきから何なんだよ、フェイキアール」
「暇を潰したい、と言ったのはお前だろう?私はそれに協力してやろうとしているのだ」
俺はポカンとして、数分前の記憶を探る。そういうことか。フェイキアールの言わんとしていることはわかった。
「それは、俺の言った条件、全てに合うのか?」
「ああ。この場を動かずに、かつ命令を破らず、暇を潰せる」
にたりと口角を引き上げたフェイキアールに、砂漠の上に押し倒される。
「誰かが通ったらどうするんだ?フェイキアール」
「そのときになったら考えたらいい」
フェイキアールの指が俺の顎のラインをなぞった。俺は左手をフェイキアールの首に回して、少しだけ引き寄せる。
「お前が砂漠の向こうを見ておけよ」
「可愛らしいお前の姿を見る合間に、そっちを見る暇があったらな」
無いだろうが、と付け加えたフェイキアールの表情は逆光で見えなかった。
「それじゃあ、俺の条件に合わない」
「可愛いげのないやつだ」
俺はフェイキアールの首に回していた腕をおもいきり引き寄せる。一瞬だけ、驚いたような表情を浮かべたフェイキアールは見逃さなかった。至近距離にあるフェイキアールの瞳を覗き込んで、俺は笑みを浮かべる。
「余所見なんてさせるつもりはない」
唇を重ねる瞬間に、それだけで言ってやった。
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