「おはよう、ナサニエル」

俺は、寝惚けた表情でYシャツのボタンを閉めながらキッチンに降りてきたナサニエルに声をかけた。おはよう、と言いながら、ナサニエルは目を擦る。

「バケットサンド出来てるぞ」

紅茶と一緒に、キッチンのカウンターに座ったナサニエルの前に、バケットを差し出した。

「今日は?」
「忙しい」

そうじゃなくて、と俺はカップを磨きながら、ため息をつく。

「帰りの時間だよ。迎えに行く」
「うーん…遅い、としか言えないよ」

まだ寝惚けたままのナサニエルはバケットを頬張った。もごもごとしばらく咀嚼して、こっくりと飲み込む。ナサニエルが何も言わないもんだから、俺も何も言わずに昨晩出た食器を片付けていた。

「でも、なるべく早く帰れるようにする」

食べ終わったらしいナサニエルが、立ち上がって言う。さっきよりも表情がしゃっきりしている。俺は、皿とカップをシンクに押し込んで、ナサニエルの斜め後ろをついていく。

「わかった。…ほら、前を向いてみろ」

しぶしぶ、といった感じで、ナサニエルはこちらを向いた。そして、俺は違和感に気付く。

「ボタン、かけ違えてる」

指摘してやると、ナサニエルは顔を真っ赤にして、シャツを凝視した。だが、どこがかけ違えているのか、わからないらしく、固まったままでいる。

「全く…直してやるから、じっとしてろ」

俺は何の気なしに、ナサニエルのボタンに手をかけた。一つボタンをはずして、次のボタンにかける。

「ん、バーティミアス…」
「…何だよ」

何でも無い、そう言ったナサニエルの心臓が飛び出さんばかりに、ばくばくと脈打っている。俺はそれ以上何も言わなかった。

「早く、帰ってこいよ」

直し終えた俺は、素早くナサニエルの唇を一瞬だけ奪う。顔を上げると、驚いた顔で俺を見返すナサニエルと目が合った。

「バーティミアス?」
「さっさと行ってこい!続きは帰ってきてからだ!!」

俺はナサニエルの向きを変えさせて、ぐいぐいと玄関まで押していく。玄関で鞄を持たせて、運転手と交代。俺は見えなくなるまで、ナサニエルの乗った車を見送った。







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