「バーティミアス、クッキーを」
へいへい。俺は心の中で返事をした。さっさとキッチンへ引っ込んで、用意してあった皿を取る。
「お持ちしましたよ、ご主人サマ」
クッキーの乗った皿と、ティーセットを小僧の目の前のローテーブルに置いてやる。そして、クッキーを一つ手に取った小僧は赤面した。
「ばっ、バーティミアスっ!」
「どうした?」
俺はニヤニヤしながら返事をした。小僧が手に持ったままのクッキーには、チョコレートのデコレーションで“I want you”と書いてある。他にも“Eat me”やら“Hag me”やらと書いてやっておいた。我ながら、良い出来だ。
「選んでいいんだぞ」
どこかの国には、Yes/Noクッションとやらがあるらしい。使用方法はそれと同じだ。
「選んでる暇はない」
意味がわかったらしいナサニエルは、ゴホンと咳払いを一つして、ずるずると皿ごと俺の方に押し返した。
「了解…」
俺は一つを取ってナサニエルの口に運ぶ。咥えさせたのは、“Kiss me”と書かれたクッキー。ナサニエルがそのクッキーを食べ終わるか終わらないかのうちに、唇を奪う。そして、離したすぐ後に、今度は“I love you”と書かれたクッキーをナサニエルの唇に寄せた。
「愛してる、ナサニエル」
「知ってるさ」
そう笑ったナサニエルはクッキーを一口かじって、俺にキスをする。全く、ロンドンのチョコレートが不味いと言ったやつは誰だ。こんなに甘いのに。俺はナサニエルの唇を舐めてやった。
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