「お前はそれでいいのか?バーティミアス」

フェイキアールが俺に冷たく言い放った。夜の砂漠に吹く風は凍えるほどに冷たい。

「お前には、関係ないだろう」

俺は地面を蹴った。砂が宙に舞い上がる。

「人間を信じようなんて、そんな馬鹿げたことを考えるのは、お前くらいだろうな。それで、何度裏切られたことか…分かっているのか?」
「俺は、一度も裏切られたことは無い」

俺はそれだけ言って、立ったままのフェイキアールの隣に座ってしゃがみ込んだ。人間を信じて、俺が考えた結果と違うこともあった。だが、裏切られる、ということは無かった。それに、俺は人間全てを信じる、というわけではない。信じられる人間も居れば、そうでない人間も居る。それでいいと思っている。俺が立ち上がると、隣からため息が聞こえた。フェイキアールの吐いた息が白く濁る。

「私はお前を心配しているんだ」
「お前に心配される必要はない」
「…お前は遠くへ行きすぎた。私はもう、届かない」

フェイキアールは俺に向かって手を伸ばしたが、その手は宙を泳ぐだけで、俺には触れられない。俺は手を伸ばして、フェイキアールの手を握った。

「届いた、だろ」
「お前が私に手を伸ばしたからだ。私からだけではもう、お前には届かないのだ」

繋いだ手を思いきり引かれて、よろけた俺は、フェイキアールの胸に収まってしまう。

「…っ、何だよ」
「こうしていれば、お前は遠くへ行かないだろう」

背中を撫でるフェイキアールの手が、あまりにも優しくて、俺は何も言えなかった。

「私は、お前が苦しむ姿は見たくない」

俺を抱き締めたまま、フェイキアールが静かに言う。俺はまだ黙っていた。たまにはフェイキアールの話を聞いているのも悪くない。

「禁忌だろうと構わない」

フェイキアールの言葉に、あぁそんなこともあったな、と能天気なことを思う。禁忌だろうとなんだろうと、もう俺たちには関係ない。この想いは止められないのだから。

「バーティミアス。お前が人間に加担しようと構わない。だが、お前自身は決して人間ごときにはやらない」
「俺が想うほど、素敵なご主人様は居ないさ」

どうだか、と呟いたフェイキアールは、俺の額に口付けて、身体を離す。

「届かなくなったら、お前からも手を伸ばせよ」

フェイキアールが言った。

「気付かないかもしれない」
「そのときは、私が呼んでやろう」

それだけ言うと、フェイキアールは俺の頭を撫でて去っていく。今、俺の心に一番近いのは、フェイキアールだ。それは、きっとこの先も変わらない。俺はふっと息を吐いた。しかし、吐いた息はもう白くならない。いつの間にか、空気が柔らかくなっていた。






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