俺の主人は、実はわがままだ。辛い仕事を命じたりしない代わりに、日が暮れて、文字が書けなくなるまで、話に付き合わさせられる。あれはどうなの?これはどうなの?と、好奇心旺盛な幼い子供みたいに、質問は止まない。

「君の世界は、空気だって言ったけど、目には見えるの?」
「意識の世界だからな、目に見えるとか、そういう次元じゃあない」
「もし、君たちに罰が下らなかったら、命令に背くことはあるの?」
「あぁ。だいたい、俺たちは命令の穴を探して生きてる」
「じゃあ、君たち同士が互いに、想いを抱くこともあるの?」
「あった、が正しい。でも、とある事件が起こって、それ以来はそういう感情を持たないようにしている」
「それじゃあ、主人には?」

俺は、思わず言葉に詰まった。ここまで淡々と答えて来られたが、言葉が急にふっとんでしまう。

「普通は、そんな感情は抱かない。抱けない。そんな素敵なご主人様は居ないからな」

やっと探し当てた言葉はそれだった。ちらっとプトレマイオスを見ると、少し寂しそうな表情で俺を見る。

「そんな顔すんなよ」
「だって、レカイトが」
「普通は、って付け足しただろう?」

そうだけど、と唇を尖らせて、ふいっと顔を背けられた。

「お前さんが求めているのは、俺たちの一般論だろう?俺との関係は、例外中の例外だ」
「分かってるけど、それを聞いてしまったら、僕が報われないことをしているみたいだ」

その通りだろう、という言葉は飲み込んでおく。俺も、今はプトレマイオスを信じたい。

「何が起こるかは分からない」

俺はそう呟いた。

「こんな主人が現れるとは思ってもいなかった」
「これが僕だ」
「あぁ、そうだよな…」

プトレマイオスに手招きされて、すぐ隣に座る。肩に腕を回されて引き寄せられたので、自動的に俺はプトレマイオスの肩に寄りかかる体勢になってしまう。

「ねぇ、レカイト?」
「なんだ?」
「僕のこと、ちゃんと好きかい?」

プトレマイオスは、俺の髪をそっと撫でながら聞いた。

「もちろん、好きだ」

俺は嬉しそうに微笑むプトレマイオスの頬にキスをする。プトレマイオスの質問はまだまだたっぷりあるだろう。俺はゆっくりと目を閉じた。





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