好きだなんて言葉じゃ物足りないことに気付いたのは、いつのことだったかはもう覚えていない。それ以前に、自分がいつバーティミアスのことを想い始めたのかさえ分からない。きっと自分がその事に気づく前に、バーティミアスは気付いていたかもしれない。ナサニエルはそっと、床のペンタクルのふちに触れた。最初にバーティミアスを召喚したときは、ものすごく緊張していたのだった。正直、あのときのことはそれくらいしか覚えていない。その後も、散々バーティミアスを巻き込んで、いろいろなことをした。失敗も同時に思い出して、ナサニエルは思わず笑ってしまう。

「おーおー、お前さんが笑うなんて珍しいじゃないか、Master Nathaniel(ナサニエル坊っちゃん)?」

ナサニエルはその声に振り返った。にいっと笑う、褐色の青年は扉に寄りかかって、腕組みをしていた。

「その呼び方はやめろ。からかってるのか?」
「なら、My sweet heartか?」

優しく言ったバーティミアスに、ナサニエルの心臓がばくんと跳ねる。ナサニエルの反応を見たバーティミアスは、笑顔を絶やさぬまま、ナサニエルの傍に寄った。

「召喚部屋に居るってことは、俺を解放するのか?」
「して、ほしいのか?」
「そうだな…してほしいと言えばそうだし、してほしくないと言えばしてほしくない」

わけの分からない返事をした後、バーティミアスはナサニエルの隣にしゃがむ。

「何を言ってるんだろうな、俺は。こんなんじゃ、妖霊失格だな」

自嘲気味に呟くと、バーティミアスはこてんとナサニエルの肩に頭を預けた。

「解放してほしくない、なんてな」
「でも、命令なら仕方ないだろう?」
「元々、その方法しか、俺が解放される手段は無い」
「そう考えれば、失格、なんて言葉を使わずに済むだろう」

ナサニエルは肩に乗ったままのバーティミアスの頭を撫でる。緩い熱が服越しに伝わってきた。

「何で、そんなことを言うんだよ」

バーティミアスがナサニエルに問いかける。分からない、とナサニエルは呟くと、でも、と続けた。

「バーティミアスはバーティミアスだ。一般論に囚われて欲しくない。それに、僕はお前を愛している」

ナサニエルは部屋の窓の外を見る。バーティミアスには、辛い思いをしてほしくない。幸せになってほしい。いつも笑っていてほしい。望みは全て叶えたい。ナサニエルの指がペンタクルをなぞった。

「お前の方が、妖霊の考え方に近いな」
「悪魔に身を堕としたって、バーティミアス、お前のためなら構わないさ」
「馬鹿だな、ナサニエル」

にっと笑ったバーティミアスはナサニエルに口付ける。言葉だけでは物足りない。なら、触れて伝えるまで。心は心で感じてほしい。ナサニエルは、そっとバーティミアスの首に腕を回した。




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