「首相のお気に入りの情報大臣ってさぁ」
「あー、アレだろ?首相と寝たんだろ?」
「劇作家のメイクピースとも、らしいぞ」
「マジかよ!俺もそのくらいすれば、大臣になれっかなー」
「ははっ、どうだかなぁ?」

二人のちゃちなスーツを着た男たちが、がやがやと喧しく俺の横を通って行った。全く、小僧はどんだけ妬まれてるんだか。俺は、革靴の踵をわざと鳴らして、廊下を歩く。そして、一つの扉の前まで来ると、立ち止まった。咳払いを一つしてから、扉を叩く。返事は、もちろんない。小僧は返事をしないのだ。俺は、そっと扉を開いた。

「終わったぞ」
「あぁ、そうか」

それだけ言うと、すぐに黙りこむ。俺の事は一度も見ない。いつもそれの繰り返しだ。変わることはほとんどない。例外があるとしたら、小僧の仕事が済んでいる時くらいだ。俺は来客用のソファに深く腰掛けた。

「小僧、」
「何だ?」

小僧は書類から顔を上げずに返事をする。真面目過ぎるから、妙な噂が立つ。ストイック過ぎるのも考えものだと俺は思った。さっきの男たちは、ナサニエルの真の努力を知らない。たぶん、知っているのは俺だけくらいなものだろう。

「敵は少ない方がいいと思うがな」
「今更、もう遅い」

小僧は俺が言いたいことを悟ったように言う。

「僕には敵しか居ないから」

小僧は一瞬だけ手を止めて、静かに言った。変なところで強がるから、こっちはハラハラする。

「知ってるさ。どんな噂を流されてる、とか全部。どうやら、僕はいろんなところで、いろんな人間と遊んでいるらしいからな」

そう言って、ナサニエルは自虐的に笑うと、ペンを置いて椅子から立ち上がった。ソファに座る俺に近付くと、頬に触れられる。

「バーティミアスしか、居ないのにな…」

寂しげに囁いたナサニエルは、少し屈むと、俺にキスを落とした。一瞬だけ重なって離れた唇を、俺はナサニエルの頭を引き寄せて、今度は俺から奪ってやる。

「俺だけ、だな」

俺がにっと笑うと、ナサニエルは俺の比田井に自分の額を軽くぶつけて、柔らかく微笑んだ。

「一生、お前だけだ」
「いいのか?俺で。俺は妖霊だぞ?」
「関係ないさ。僕はお前を愛している。お前は僕を愛している。それだけで、十分だ」

そう言って、ナサニエルはいたずらっぽく笑う。俺はナサニエルを抱き寄せて、膝に乗せた。

「I have a deep love of you,Nathaniel.(俺はお前を心の底から愛してるんだ、ナサニエル)」
「I know…」

俺はナサニエルにそっと口付けた。誰が何と言おうと構わない。俺がナサニエルを知っている。俺が、俺だけがナサニエルを愛せる。それだけで、十分だから。






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