6月に結婚式を挙げると、永遠に幸せで居られると言う。別に、6月に式を挙げなかった夫婦がずっと幸せで居られないわけではないし、6月に挙げたからと言って、幸せで居られる保証もない。夢がないと言われようが、ナサニエルにはどうでもよかった。結婚なんて、一生するつもりはない。

「6月、ね…」

カレンダーを見て、ナサニエルは呟いた。その声に書類を整理をしていたバーティミアスが顔を上げる。

「それが、どうかしたのか?」

首を傾げて聞いたバーティミアスに、特に意味は無い、と返すと、バーティミアスは探るような目を向けてから、仕事に戻った。ナサニエルはため息をついて、伸びをする。

「少し、休憩だ」

ナサニエルが立つのより先に、バーティミアスが動いた。それをナサニエルが手で制すると、バーティミアスはさっさとデスクの隣にあるソファに座る。

「紅茶は後ででいい」
「珍しいこともあるもんだな」
「…そういう気分なだけだ」

ナサニエルが部屋の窓を開けると、風が吹き込んでくる。その冷たさに慌てて窓を閉めた。

「6月とか言い出すってことは、どうせジューンブライドのことを考えていたんだろ」

6月だからといって関係ない、とかそう思ったんだろう、と言われてナサニエルは無言で視線をさ迷わせる。それを肯定と取ったバーティミアスは席を立って、ナサニエルに近付いた。

「まぁ、確かに関係は無いな。だが、そういうジンクスは好きだが」
「安易なだけだ。ジューノにあやかろうだとか、天気が良いだとか。そんなジンクスにすがるなんて、幸せになれる自信が無いからだろう?」
「夢が無いな…」
「うるさい。知ってるよ」

ナサニエルはむっと唇を尖らせる。

「とにかく、僕には関係ない。それだけだ」

ふーん、とバーティミアスは必死なナサニエルを横目で見た。関係ない、と言っている割には気になっているようなナサニエルの傍に寄る。

「何だよ」
「いんや別に」
「何も無ければ、仕事再開だ」

そう言うと、ナサニエルは、バーティミアスから離れて、デスクに戻る。しかしでそれをバーティミアスの腕が止めた。

「何?」

ナサニエルが面倒そうにたずねると、バーティミアスはニヤリと口角を上げる。

「紅茶は?」
「終わったら」
「スコーンは?」
「終わったら」
「ケーキは?」
「それも、終わったらだ」
「キスは?」
「おわった…今だ」

ナサニエルの言葉に、バーティミアスはナサニエルを引き寄せた。優しく、触れるだけのキスをして、頬を撫でる。

「まぁ、俺にも全く関係ないが」

バーティミアスはそこで言葉を切った。ナサニエルに微笑みかけると、もう一度唇を重ねる。

「ジューノも驚くほど、幸せにしてやる。そして、ロンドンも晴れるほど、愛してやる」

永遠に、とバーティミアスはナサニエルの耳元で囁いた。ナサニエルはバーティミアスを抱き締めると、肩に顔を埋める。

「約束、だから」
「当然だ。世界で一番大切にする」

顎を持ち上げられて、視線を合わせられた。離したくても、目を離せずに、ナサニエルは口を開いた。

「I devote myself to you with great love and affection for you.(大きな愛を込めて、お前に僕を捧げる)」

バーティミアスに微笑まれて、コツンと額を合わせられる。

「俺が、幸せにしてやる。愛してる、ナサニエル」

優しく口付けられて、ナサニエルはバーティミアスの首に腕を回した。きっと、ジュノーも拗ねているに違いない、と思いながら。




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