どんなに愛しても足りないことがあることに、今更気が付いた。ナサニエルはぼやける視界で、バーティミアスを見た。
「足りないんだ」
ナサニエルの突然の呟きに、バーティミアスは眉間にシワを寄せる。黙ったまま、ナサニエルの次の言葉を待っていた。
「お前を愛し足りない」
そんなことか、とバーティミアスは笑みを溢す。それくらい、当の昔から気付いていた。
「いくら愛しても、僕は満足出来ない」
ナサニエルは首を振る。
「僕は貪欲だ。求めて手に入っても、さらにそれを求める。醜い、な…」
自嘲気味に笑うと、バーティミアスの髪に鋤くように触れた。人間と同じようにさらさらとこぼれ落ちる髪は、人間のものよりも艶やかで美しい。
「なら、求めればいい。満足できるまで、俺を求めろ」
挑発的な視線を向けられて、ナサニエルは思わず息を飲んだ。バーティミアスの瞳がナサニエルを捕らえて離さない。そして、引き寄せられるようにキスした。
「愛してやるよ、ナサニエル」
バーティミアスのその言葉を最後に、ナサニエルの視界が反転した。目を瞑る前に見えたのは、バーティミアスの口角が上がる顔だった。
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