初めて、バーティミアスにキスをされたとき、ナサニエルはバーティミアスに全てを捧げる覚悟をしていた。そう言うと、少しは聞こえがいいが、正直なところ、ナサニエルはバーティミアスが欲しくて仕方がなかった。最初は友人や家族としての愛だったが、いつの間にかそれが恋慕の情へと変化していた。バーティミアスの優しい声も、甘い笑顔も、温かい体温も全てが欲しかった。どうしてもナサニエルはバーティミアスの全てを手に入れたかったのだ。ナサニエルにとってバーティミアスは、ナサニエル自身を保つ為の全てであった。バーティミアスを失えば、ナサニエルは消え去る。ナサニエルはそう信じていた。
バーティミアスに、恋、をしていたときはまだよかった。一緒にいられるだけで幸せで、その先の事を考えている余裕など無かった。しかし、バーティミアスも自分を愛していると知ってから、ナサニエルはバーティミアスの心だけでなく、その先も求めるようになっていた。だが、そうは言っても、妖霊にも人間と同じような欲望があるとは考えられなかったし、ナサニエル自身もさすがにそこまでは、というセーブを自分でもしていた。不毛過ぎていたたまれない、と思っていた。それなのに、そのセーブも外れてしまいそうだった。バーティミアスが傍に居れば、手がのびてしまいそうになる。キスをすれば、その先を、と求めてしまいそうになる。触れているだけでは物足りない。

「バーティミアス、」
「何だ?」

名前を呼べば、顔をしかめながらも振り返ってくれる。人間のように瞬きをする目も、人間のように動く唇も、細くて長い指も全てが欲しい。愛しくて堪らない。堪えきれなくなったナサニエルは、とうとうバーティミアスに腕を伸ばした。唇に唇で触れて、開いた口腔に舌を滑り込ませる。歯列をなぞって、舌を絡めていると、何とも言えない快感がナサニエルの脳を犯していく。手持ちぶさたになっていた片方の手で、バーティミアスの手を繋ぎとった。一瞬だけ大きく見開かれた瞳は、すぐに楽しそうに細められる。

「ん、…」

ナサニエルが酸素を吸収するために少しだけ開けられる空間からは、甘ったるい声が漏れていた。バーティミアスの手を握る手にも少しずつ力がこもっていく。

「ふは…ぁ、」

空いた方の手で、バーティミアスを首ごと引き寄せる。そのまま繋いだ手を離すと、その手でバーティミアスの腰を抱き寄せた。ナサニエルのその行為が、何を意味しているのか、バーティミアスにも何となく分かっていた。ナサニエルに答えるように、バーティミアスはズボンの上から主張しているそれを撫で上げた。

「んぁっ」

ナサニエルが眉間にシワを寄せてバーティミアスをにらむと、バーティミアスは仕方ないな、というふうに眉を下げて、ナサニエルを離した。

「誘ったのはお前の方だろ」
「驚いただけだ。まさか、お前がその…」
「乗ってくるとは思わなかった?」

バーティミアスの言葉にナサニエルはゆっくりと頷く。バーティミアスはふっと口角を上げるとナサニエルの首筋に顔を埋めた。

「った、」
「これで、お前は不安じゃ無くなるか?」

ナサニエルの白い肌に散った紅をなぞりながら、バーティミアスが聞いた。

「何で、そんなこと…」
「分かるさ」

バーティミアスはナサニエルの目から視線を外さずに言う。ナサニエルは、バーティミアスの今の言葉を勝手に解釈していた。これはたぶん、彼なりの了承なのだろう、と。バーティミアスが、ナサニエルの行為の意味を理解していないはずが無いと思ったからだ。ナサニエルも、バーティミアスから視線をそらさずに、唇を開いた。

「バーティミアス、僕を抱け」

ナサニエルが言い終わるか終わらないかのうちに、バーティミアスに押し倒される。触れるだけの口付けをされて、ナサニエルは目を閉じた。


‐‐‐


「っあ」

ナサニエルの高い声が部屋に響いた。

「したかったんだろ?」

バーティミアスがナサニエルの青白い肌に紅い花弁を散らせながらたずねる。薄く開いた視界では、バーティミアスがどんな表情をしているのかはっきりとは分からなかったが、かすかに笑みを浮かべているのだけは分かった。

「なに、を?」
「俺と、セックスを」

何の恥じらいもなく、淡々と言うバーティミアスは首筋をなぞり、ナサニエルの耳に舌を這わせる。

「べつ、に…お前はなんとも、思っていないだろ、ぅッ」

指で胸の飾りを弾かれ、舌では耳朶を舐められる。甘い快楽がナサニエルに一挙に押し寄せ、その快楽にのまれそうになったナサニエルはバーティミアスを身体ごと抱き寄せた。

「どうした?」

ナサニエルは答えられずに、ただ、首を横に振る。話せばそれだけ自分の声を聞かなくてはならなくなる。そう思って、ナサニエルは口を閉ざそうとしていた。

「抑えんなよ」

いつもと違う低音で囁かれて、ナサニエルにびくりと身体を震わせる。それでも、堪えようと上げた手をバーティミアスに掴まれた。

「はな、せ」
「離すかよ。この手も、お前も」

バーティミアスはそう言って、掴んだ手の甲に口付けて、ナサニエルを抱き締めた。

「こんなつもりじゃなかった」

バーティミアスは悲しげに呟いた。バーティミアスの手が優しくナサニエルの背中を撫でる。

「僕だって、同じだ」

荒い息を整えて、ナサニエルはバーティミアスに答える。その声にバーティミアスが顔を上げると、瞳に涙をいっぱいに溜め、頬が朱に染まったナサニエルと目があった。その、普段の“ストイックで仕事の出来る情報大臣”からは想像も出来ない姿に、ついどきりとする。こんな姿を知っているのは、自分だけであると思うだけで、軽い優越感に浸ることができる。

「お前は知らないと思うけど、気が付いたら、自分でも驚くほど、お前を好きになっていた」

ナサニエルは吐き捨てるように言った。

「冷酷で心もない情報大臣、なんて言われる、この僕がだぞ?」

笑える話だろう、とナサニエルは力なく笑う。身動ぎ一つせずに聞いていたバーティミアスは、何も言わずにナサニエルを抱き締めた。

「バーティミアス…好きだ、愛しているんだ」
「こんなときに言うなんて、反則だろ…」

バーティミアスの腕に、さらに力がこもる。その温もりに、ナサニエルは泣き出しそうだった。

「ナサニエル、俺も愛してる」

バーティミアスはそう言って、ナサニエルの額にキスを落とすと、今にも溢れてしまいそうなナサニエルの涙を舌ですくいとる。

「今晩だけ、ジョン・マンドレイクを壊してくれ」

ナサニエルの願いに、バーティミアスは何も答えず、ナサニエルの唇に噛みつくようなキスをした。その間にも、バーティミアスの指がナサニエルの後孔に埋め込まれる。

「、ッは…」
「…今さらだが、お前がソッチでいいのか?」

唇が離されて、バーティミアスがナサニエルにたずねた。言葉を発する度に、互いの唇が触れあう。

「いい。いい、から…」

ナサニエルが大きく息を吐くと、その隙を狙ったバーティミアスの指が増やされた。

「ひゃ、」

ある一点をバーティミアスの指が掠めると、ナサニエルの口から、一際高い声が漏れる。それに気付いたバーティミアスはにたりと口角を上げた。

「ここか?」
「ぁ、や…」

一点を指で引っかかれて、ナサニエルの身体がビクンと震える。瞳に溜まっていた涙がとうとう溢れた。

「もぁ…」
「どうした?」

バーティミアスはニヤニヤと笑いながら、指を動かす。今度はそこを掠めるように触れられて、もどかしさに、ナサニエルの腰が少し揺れた。

「命令されないと、俺は動けないぞ、ご主人さま」

ナサニエルの全てを知った上で、バーティミアスはそう言い放った。通常ならそこで口論が開始するが、ナサニエルの溶けた思考では、もうそんなことも考えられなかった。

「イか、せろ…っ」
「仰せのままに、ご主人さま」

バーティミアスは不敵に口角を上げると、片方の手をナサニエルの自身に手を伸ばす。やわやわと上下に扱かれて、ナサニエルは唇を噛み締める。

「あんまり噛むと、血が出るぞ」

そう言われたが、自分の声を聞くよりはましだった。しかし、それもあっという間に力が抜けてしまう。

「ッ、イく…ぁあっ」

ナサニエルは目を瞑って快感に堪える。達した直後の、肩で息をするナサニエルを、バーティミアスはシーツに押し倒した。

「こっからが、本番だぞ」

ふぅっとナサニエルの耳に息を吹き掛けると、慣らしたばかりの後孔にバーティミアスの自身をあてがう。今までも、何度か命令としてセックスをしたことはあったが、そこに感情はなかった。バーティミアスにとっては一種の作業であり、仕事の一環でしかなかった。だが、今は違う。ある意味、バーティミアスにとっても初めての経験であった。思わず、ナサニエルを抱き締める腕に力がこもる。

「はや、く…バーティミアスっ」

掠れたようなナサニエルの声に、バーティミアスの成分が反応する。

「挿れるぞ」

ナサニエルは何も言わずに、バーティミアスの首に腕を回した。ここから先に踏み込んだら、もう戻れなくなることは重々承知だったが、引き返すことが出来ないことも確かだった。ナサニエルの全身がバーティミアスを求めている。

「、ぁあ…ったぁ」

ぐっと腰を進められて、バーティミアスの体温を全身で感じる。目を開けると、バーティミアスが微笑んでいた。

「力抜け、まだもう少しだから」
「そ、んなっ…ムリ」
「じゃあ、止めるか?」

バーティミアスの言葉に、ナサニエルは左右に首を振る。ぎゅうっとバーティミアスの首を抱き寄せて、震える声を絞り出した。

「やめないでくれ。最後まで…」

言いかけたところで、バーティミアスにキスをされる。口腔を舌でまさぐられて、ナサニエルの思考があやふやになる。その間に、バーティミアスは腰を進めた。

「ふは…っん」

最後に舌を吸われて唇が離される。

「全部入ったぞ」

ニヤリと笑って言われたが、ナサニエルは呼吸をするのもやっとだった。肩を上下させて、必死の思いでバーティミアスにしがみつく。抱き締めたバーティミアスの体温が熱い。

「ナサニエル、」

名前を呼ばれだけで、全身で感じてしまう。バーティミアスを咥えこんだそこが、痛いほどに熱を持つ。

「ナカ、すっげぇ熱いぞ」
「いうな、ばかっ」
「まだ、強がれるなら、動いても大丈夫だな」

バーティミアスはそう言うと、ゆっくりと突き上げを開始した。そろそろと弱いストロークに、ナサニエルの腰が思わず揺れてしまう。

「足りない、か?」

バーティミアスが口角を楽しそうにあげた。

「ご主人さまは、激しい方がお好みなんですね」

バーティミアスは冗談めかして言ったが、ナサニエルにはそれどころではなかった。突然、激しく突き上げられて、高い声が上がってしまう。ぎゅっとバーティミアスの身体に回した腕に力を入れると、その分、突き上げも激しくなる。

「ぁ、はっ…はげし、ッ、いっ」
「思ってもないくせに、腰が揺れてるぞ、ナサニエル」

そう言われて、一瞬視界が弾けた。

「バーティミ、アスっ…」
「ここに、居る」

脳髄まで溶けてしまいそうな快感に、恐怖を感じて、ナサニエルは譫言のように何度もバーティミアスの名を呼ぶ。その度に、バーティミアスはナサニエルにキスを落とした。

「大丈夫か?」
「わか、っない…」

ナサニエルの呂律が回らなくなる。優しく抱き締める、バーティミアスの熱い体温にすがるように、ナサニエルは身を預けた。突き上げられる度に、繋がった部分から卑猥な水音が部屋中に広がる。

「んっ…も、ムリ、かも…」

顔を真っ赤にしたナサニエルが、バーティミアスを潤んだ瞳で見た。ナサニエルの顔は、快感と痛みと涙と唾液でぐちゃぐちゃになっていた。

「これは俺以外には教えられない。…教えるつもりもないけど」

バーティミアスはナサニエルを見て呟く。抱き締めてもどこかに行ってしまいそうなナサニエルに深い口付けをした。

「は、ぁん…」
「愛してる、ナサニエル」

バーティミアスは、ナサニエルの頬を優しく手で包み込んで言う。バーティミアスも熱に浮かされているようだった。ナサニエルは返事の代わりに、バーティミアスの唇に噛みつく。

「ぼくも、あいしてる、バーティミアス…」

もう一度唇を重ねると、バーティミアスはさっきまでよりも激しく突き上げた。ナサニエルの瞳の焦点がさだまらなくなる。

「はぁっ、ぁっ…バーティミアスッ」
「呼ぶな、よ…」

ナサニエルは思いきり目を瞑って、達した後、そのまま意識を飛ばしてしまった。バーティミアスはナサニエルを見て笑みを溢すと、その額にキスを落とした。


‐‐‐


ナサニエルが目を覚ますと、いつも通りの天井があった。夢だったのか、とため息をついて、起き上がろうとすると、腰に激痛が走る。

「夢じゃ、なかったのか…」

嬉しいような、よくわからない感覚に、ナサニエルはもう一度、布団に横になった。

「おはよう、ナサニエル」
「お、おはよう」

バーティミアスの顔を見て、赤面してしまう。

「顔、真っ赤」

熱でもあるのか、と額を寄せられて、ナサニエルは飛び退いた。

「いったぁ…」
「阿呆、昨晩あんなに乱れてたんだから、当然だろう」

バーティミアスに言われて、ナサニエルは黙りこむ。あんなことをしておいて、バーティミアスは淡々としている。慣れているのだろう。

「俺だって、初めてみたいなもんだったんだぞ」
「え?」

バーティミアスが、カーテンを開けながら呟いた。逆光で表情が見えない。

「感情があったのは、初めてだった」

バーティミアスの声が、笑っているように聞こえた。ナサニエルは軋む腰を無理矢理起こす。どうしても、バーティミアスに近付きたかった。

「好きだ、バーティミアス」
「昨日の続きか?」
「いや、これからの始まりだ」

ナサニエルはそう言って、バーティミアスにキスをした。




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