※時間軸はプトレの後








砂漠の向こうに太陽が沈んだ。紺色の闇に敷き詰められた星がきらきらと瞬く。

「悩み事か?バーティミアス」

背中から声がかかって、俺は振り返った。

「まぁな」

俺は笑って返す。フェイキアールも少し微笑むと、俺の隣に腰掛けた。

「お前が悩み事とはな」
「俺だって、そのくらいはするさ」

満月を見つめて言うと、隣でフェイキアールがため息をつく。何が言いたいのか、とフェイキアールを見ると、さっきの俺と同じように月を見上げていた。

「…また、あのアレクサンドリアの小僧のことか?」

そう言われて、俺は黙りこむ。図星だ。あのときから、プトレマイオスのことが頭から離れない。最後に見た、あの笑顔が忘れられないのだ。甘い笑顔と優しい声がふとした瞬間に浮かぶ。もう一度笑ってくれたら、もう一度名前を呼んでくれたら、と願ってしまうのだ。

「もう居ないのだろう?今悩んでも、どうにもならない。違うのか?」
「お前には分からないだろ、俺が何と言おうと」
「あぁ、理解出来んな」

さらっと否定されてカッとしたが、慌ててそれを押さえた。フェイキアールに何を言っても理解出来ない。ヤツは人間は全て同じ、と決めつけている。中にはそうでない人間も居るのにも関わらず、だ。プトレマイオスが特別だっただけかもしれないが。

「お前はいつだってそうだ。深く関わった人間に毎回裏切られる」
「プトレマイオスは違う!」

自分でも驚くくらい大きな声が出てしまった。

「ずいぶん必死だな」
「そうじゃない」「どうだろうな」

フェイキアールは俺を嘲るように鼻を鳴らす。プトレマイオスは俺を裏切ったりしない。俺を守って、消えてしまったんだ。

「お前の記憶の中で美化されているだけじゃないのか?」
「そんなことはない」

だんだん、フェイキアールに返す俺の声に力がなくなってくる。それにしても気付いたらしいフェイキアールが、立ち上がって大きくため息をついた。

「それでも人間を慕うのか」

俺はとうとう何も返せなくなった。特別なのはプトレマイオス。人間ではない。だが、もしかしたらまた、特別な人間が現れるかもしれない、と考えてしまう自分も居る。

「遠くまで行ったな、バーティミアス」

フェイキアールが言った。その表情は、月の影になって見えなかった。




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