天下分け目の戦いは、西軍が勝利した。しかしその勝鬨など、総大将である三成には届いていないようだった。




 地面に力なく倒れている清正。それを見て、三成は絶望したように膝をついた。
「…あ、…あぁ……っ。」
 彼の口から言葉にならない嗚咽が漏れる。その僅かな声を聞き、清正がぴくりと動いた。
「清正!?」
 三成が清正を抱き抱えると、清正はゆっくりと目を開いた。
「…みつ…なり……。」




 生きている。嘘みたいだった。




 その場で二人してぴーぴー泣いたのはお互い消してしまいたい過去だった。








 「清正ぁ、見てくれよ!でっけぇ蝶々捕まえたぜ〜!!」
「それは蝶じゃねぇ蛾だ馬鹿!…逃がしてやれ。」

 大坂城の中庭で繰り広げられる正則と清正のやりとり。それを、どこか柔らかい眼差しで三成は見ていた。
「まったく…馬鹿共が……。」
 相変わらずの悪態も、棘がなく優しい声色だった。以前と変わらぬ、温かいこの風景。

 (俺は、守れたのだな…。)


 「とーの。」
 不意に、後ろから声をかけられた。振り向かずとも分かる。三成をこんなに軽々しく呼ぶことができる家臣は、島左近以外にいない。彼は飄々とした人物であったが、この男がいなければ先の戦の勝利は危うかったであろう、百戦錬磨の名軍師なのだった。
「左近か。」
「随分幸せそうな顔をしてますねぇ。」
「ああ……。」
 左近の言葉に、三成は素直に頷いた。
「俺は今、きっと幸せなのだろう…。お前の働きのお陰であるところも、大きいと思う。礼を言うぞ。」
 三成はふわりと笑った。その表情に、左近は不覚にも胸が高鳴るのが分かった。それを誤魔化すために、わざと少し意地悪を言ってみる。
「殿がそんなに素直だなんて……明日は大雨ですかねぇ…。」
「なんだと!?」
「はは、冗談ですよ。」
 と、二人が話している間に、清正が割って入って来た。
「三成、ちょっといいか。」
「どうした?」
 清正はそのまま三成の手を引くと、どこかへ行ってしまった。



 「清正さん、余裕ありませんねぇ……。」
 左近がにやりと笑う。
「清正ぁ、俺も〜!」
「おっと、正則さんはここにいて下さいね。」
「何でだよ!清正と三成が…。」
「いいですから。」
 左近は清正達を追いかけようとする正則を制すると、遠くに消える若人二人を親のような心境で優しく見詰めていたのだった。



 


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