忠勝が再起動したと気付いた次の瞬間に、友に迫る凶器。
吉継は、体が勝手に動いていた。
隣りにいた三成を突き飛ばすとほぼ同時に、吉継の胸を深々と貫く槍。
吉継は輿ごと地面に崩れ落ちた。
「刑部!!!」
嗚呼三成よ、何を言っているのか分からんよ。目も霞んで……もう見えぬ。どうせ永らえることは叶わぬこの体……。最期にぬしを守れて良かったと思うぞ。最期に視界に入ったのがぬしで、良かった。もう誰も、われからぬしを奪えはせぬ。
日の本の人間が皆、そうよわれも含めて、皆不幸になったらいい。その不幸の代わりに三成よ、ぬしだけ幸せになれ。どうか生きてくれ。
「何故私だけ、行ってはならぬのだ。秀吉様の元へ。」
あの天下分け目の大戦から数日、三成は生きながら死んでいた。西軍が勝利を収めたものの、それ以上に大切なものを彼は喪ったのだった。
「刑部、何故私を裏切った!何故私の元を去った!!」
大坂城に三成の慟哭が響き渡る。彼は、美しい顔をくしゃくしゃにして泣き叫んだ。最早自分はどうして生きているのか……。しかし、三成には自ら命を絶つという選択肢はなかった。大切な友人が守ってくれたこの命。いわば吉継と自分と、二人分の命なのである。自刃をすれば、吉継さえも殺すことになる。彼を裏切ることは、三成にはできなかった。
…やれやれ、そんなに叫ばれては耳が痛うてかなわん。われもこんな三成を残してはおちおち地獄にも行けぬわ。
ひらり、ひらり。
どこからともなく現れた白い蝶が三成の目の前を飛び回る。
それと同じ頃、大坂の町には島津義弘、真田幸村、長宗我部元親がやって来ていた。かつての西軍の仲間達が、総大将に会いに来たのだった。
やれ三成、前を向け。
柔らかい風が、三成の涙に濡れた頬を撫でて行った。
どこかで吉継の声がした気がした。
―終―