「刑部!」
 三成は戦場を駆けていた。雑魚も大群をなせば鬱陶しいもので、吉継に遅れを取ってしまった。既に決着は着いてしまったのだろうか?
(妙な胸騒ぎがする……。)
 三成は細い脚で関ヶ原の地面を蹴り、東軍本陣へと急いだ。
「刑部、勝手に死ぬことは許さんぞ!!」




 ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ。

 浅い呼吸を繰り返す吉継。彼の前には東軍総大将の徳川家康と戦国最強と謳われる本多忠勝が倒れていた。

 ぜぇ、はぁ。
 嗚呼、われももう長くはないかも知れぬな…。だが、徳川を倒した。これでわれらに敵は無し……。そう思えば笑いすら込み上げて来やる。
「ヒ…っ、ヒヒヒ…っ!」


 「刑部!無事か!」
 ようやく三成が到着する。地に伏す家康と忠勝を見て、終わったのか、と悟った。
「遅かったな三成よ。われ一人でカタがついてしまったわ。」
「ふん、お前ならば当然だ。家康の首は私が刎ねたかったがな。」
 二人共、なんとも棘のある口の利き方ではあるが、互いの無事を確認できて安堵しているのは間違いなかった。


 「これで…全て終わったのだな……。秀吉様、半兵衛様……。」
 張り詰めていた何かが緩んだような気がして、三成から力が抜けた。そのとき、悲しいかな最早聞き慣れてしまった、甲高い乾いた機械音がした。

 動かなくなったとばかり思っていた忠勝が、ゆっくりと起き上がったのだ。奴は残りの僅かな力を振り絞り、手にした巨大な槍を投げ付けた。










 三成目掛けて。



 

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