チョコと一緒に召し上がれ

 2月14日、その日が何だって言うのだ。

 町や店は赤やピンクや茶色のハートで一面を埋め尽くされ、きらきらふわふわ、ファンシーでメルヘンでどこもかしこも甘ったるい雰囲気。これみよがしに女性の恋を応援している。近年では男から女に贈る「逆チョコ」や、女性同士で交換し合う「女子チョコ」なんてのも流行しているらしく関連商品を目にすることも多くなった。なんと言うか……製菓会社も商魂逞しいことだ。その、手を変え品を変えた毎年の売り込み方にはいっそ感心すらしてしまうレベルなのだが、俺はそんな策略にまんまと乗ってなどやらない。バレンタインデー?何それおいしいの?




 ……と、思っていたのだが。俺の恋人はそう考えてはいないようだった。


 「今度の三連休、どっか行こうぜ。」
 休日と言えば家(←俺の)でまったりが基本のパターン。たまに出掛けたりもするが、こうやって清正から誘って来るのは比較的珍しいことだった。
「どこに?千葉県浦安市か?」
「地名を出すな!あそこは夢と魔法の国だ!つーかディ○ニーはいい。絶対混んでるし。」
「世間は三連休と言えども俺は土曜は出勤だしな。お前も日曜は午後からバイトだろう?遠出はしないで、ゆっくりしてればいいではないか。」
「……あぁ、そうか。そうだな…。」
 遠出を渋る俺にそう返事をした清正は、明らかに悄気ていた。
「?」



 それを職場の同僚の立花ギン千代(既婚者)に何となく話してみたら、
「バレンタインデーが近いからでは無いのか?」
 と一言で答えをくれた。
「私の夫も出掛けようだのチョコをくれだのしつこかったぞ。カレンダー上の作られたイベントに何の意味があると言うのだ。」
 なんて言いながら、日曜はあのイケメンの旦那(一度だけ会ったことがある)とデートらしい。それを報告する彼女の顔は何だか嬉しそうに見えて、俺も一緒に笑った。普段は強気な上つれない素振り、そして時折しおらしい…。それがギン千代の可愛らしさなのだ。
「男も意外とイベントを気にするものなのだな。」
「案外な。」
 なるほど…。

 俺はその日の帰り、お気に入りのケーキ屋に寄った。チョコレートケーキを予約するためだ。勿論受け取る日は14日。




 そしてバレンタイン当日、俺は夕食後に例のチョコレートケーキを出した。それは、ツヤのあるビターチョコレートでコーティングされた生地の上に、ベリーやオレンジなどの果物がまるで宝石のようにキレイにちりばめられていて、ホワイトチョコレートでできたハート型のプレートまで載っている(「I LOVE YOU」の文字は普通にいらなかったが)見目麗しいホールケーキ。俺は今の今までバレンタインの「バ」の字も匂わさないでいたから、清正も目を丸くしている。
「今日はチョコを食べる日なのだろう?」
 してやったりな気分になり、俺は上機嫌でケーキを切り分けた。パティシエの芸術品とも言えるそれを崩すのは、少々忍びない気もしたが。
「……忘れられてると思ってた。」
「馬鹿。チョコが欲しいって顔に書いてあったぞ。」
 本当は、ギン千代に気付かされたってのは内緒だ。





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