幸せの森A

 大型の肉食動物である清正は、お腹が空くと、目の前の三成がとてもおいしそうに見えるのです。ふわふわの尻尾や良く動く可愛いお耳、柔らかそうなほっぺたも全部全部、頭のてっぺんから足の先まで、残さず食べてしまいたくなるのでした。

大好きな三成を、「おいしそうだ」なんて……。

 そんな気持ちになりたくなくて、清正は常に満腹でいるために一日に何度も食事を取りに行くのでした。




 積もった枯れ葉をベッドにしてお昼寝を始めてしまった清正に、ぽつりぽつりと葡萄を食べていた三成が言います。
「なぁ清正。これから本格的な冬が来る。もし、万が一お前が飢えることがあったら、俺を食べてくれないか。」
「!!」
 それを聞いた清正は、がさっと音を立てて飛び起きました。
「何馬鹿なこと言ってんだ!」
「本当は、冬が来る度にいつも思っていたのだ。これまでは何とかなって来たが……。今年はきちんと食糧が確保できるかどうか、分からない。」
 三成は、葡萄の果汁で赤くなった自分の指先をぺろりと舐めました。
「それに、食べられてしまったって……俺はお前の血肉になるのだ。ずーっと一緒にいられる。」
 三成はふわりと笑いますが、清正は怒っています。
「うるせぇ!誰が喰うか!」
 力任せに三成を引き寄せて、その腕に閉じ込めてしまいました。


 「お前がいなくなるくらいなら……お前を喰うくらいなら、飢えて死んだ方がマシだ…っ!」
 ぎゅうっと三成を抱き締める清正の腕が、少し震えているような気がします。
「…清正……俺は、お前に……。」
「俺だってずっと一緒にいたい。だけどな、それじゃ意味が違うんだ。もう黙れよ…。」
 清正は、三成の唇を自分の唇でそっと塞ぎました。

 それから、二匹は何度も何度もキスをしました。端から見たら、三成が清正に食べられているようにも見えたかも知れません。


 清正と三成は、ずっと寄り添って生きて行こうと誓いました。





 狐に愛を囁く虎など何処にいるでしょうか。そして、その愛を受け入れる狐など。

 しかし、人里離れた遠ーくにある、美しい豊臣の森。ここに住んでいる一組の虎と狐は、お互いを大切に想い合い、深く愛し合っていました。その二匹は、種族の壁を乗り越えて、いつまでもいつまでも幸せに暮らしていたそうです。




 めでたしめでたし。



  ―おしまい―



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