幸せの森

 人里から離れた遠く遠く。鬱蒼と生い茂る大きな森がありました。その森の名前は、豊臣の森。春には色とりどりの花が咲き、夏には緑がきらきらと輝き、秋にはたくさんの果物が実り、冬には雪で白くお化粧をします。ここは、人間の手が入らないせいでしょうか、一年中とても賑やかで、美しい森でした。





 そんな森の奥に、木漏れ日の中で一匹の狐がお昼寝をしていました。丸くなって、すやすやと気持ち良さそうです。その狐に、ゆっくりと近付く影。大きな虎でした。

 「おい、三成起きろよ。」
 この銀色の短い髪をした虎、名前を清正と言いますが、さっきの眠っていた狐、三成を食べてしまうということはありません。幼い頃から一緒に育った二匹は、とても仲良しなのです。
「ぅ〜ん……きよまさ、か……。」
 清正に揺り起こされ、三成が眠たそうにあくびをしました。彼の朱い綺麗な髪の毛からぴょこんと覗く三角の耳が、ぴくぴくと上下しています。
「そんな無防備に寝てて、何か肉食獣に喰われても知らねーぞ?」
「ここはお前の縄張りだろう?変な輩は入って来やしないさ。」
「まぁな。…けど、心配するこっちの身にもなってみろ。」
 清正に軽く叱られて、三成の耳と尻尾は下を向いてしまいました。
「……次から気を付ける。」
 反省した様子の三成の頭を、分かればいい、と清正が撫でてやります。三成は嬉しそうにきゅーんと鼻を鳴らしました。


 「ああ、そうだ。これ。葡萄がなってたから取って来たぜ。」
 清正は、三成の前においしそうに熟れた葡萄を差し出しました。それを見た三成は瞳を輝かせます。彼は、葡萄や木苺などの果物が大好きなのでした。
「これは上等な葡萄だな…。」
「だろ?
俺は、メシ済ませて来たから。」
「………。
そうか…。」

 狐である三成は、小動物などを捕まえて食べることも稀にありますが、果物など植物性の物も食べることができます。しかし虎である清正は、肉以外は食べられないのです。狩りをしている姿や獲物を食べている姿を三成に見せたく無いと、いつも清正は一匹でこっそりと食事を済ませて来ます。それが少し、三成は寂しいのです。

 しかし清正はそんな三成の思いとは裏腹に、頻繁に狩りに出掛けます。それには、理由がありました。



[ 14/15 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -