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 いい加減、どうにかなりそうだった。



 強い意志を秘めた瞳、白くてキメの細かい肌、長くて美しい黒髪に、瑞々しい唇。そしてふくよかな胸とほど良い弾力のある太股。

 毎日、こんなに近くで眺めているのに。その身体の、奥の奥まで知っているのに。

 ……自分のものにはならない。





 突発的に幸村は、食器を片付ける兼続の手を掴み、絨毯の上に引き倒していた。そのときに、高価そうな磁器の皿が床に落ちて割れた。

 「ゆ、幸村!?」
「どうして貴女は……私のものになってくれないのですかっ!?」
 特注のメイド服を、引き千切るように乱暴に脱がせていく幸村の手。
「やめろ幸村!私はお前のメイドだろう!?急にどうしたんだ!」
 こんな時間に、こんな場所で、と兼続は抵抗を見せるが幸村がやめるはずはない。
「私が聞きたいのは、そんな言葉じゃない!」



 そのまま幸村は、兼続を手酷く抱いた。








 所々破れたりほつれたりしてしまったメイド服を身に付け、髪の毛を結い直したりして何とか体裁を繕う兼続。あんなことをされたのに、もう業務に戻ろうと必死だ。

 そんな健気なメイドに、窓際に佇む主人が声を掛ける。
「兼続殿……もう、いいです。」
「…?
どういうことだ?」
「暇を出すと言うことですよ。明日から来なくて結構です。」
「!」
 身嗜みを整えていた兼続の手が止まった。


 「もう随分と前に、上杉の借金は無かったことになっているんですよ。お館様が、貴女の働きぶりや人柄に感服して……。だから、貴女を未だ此処に置いているのは完全に私の我が儘です。
上杉の家では、皆兼続殿の帰りを待っていることでしょう。貴女の敬愛する、謙信殿も……。」
「…謙信公……。」
 本来の主人の名前を呟いた兼続に、幸村の心臓がずきりと痛む。その幸村の姿は、ひどく弱々しい。それを見た兼続は、先ほど獣のように自分を貪っていた男と、本当に同じ人物なのだろうか、と思った。





 そして、周囲の人間全員から「優しくて気が利く、爽やかな好青年」と思われている幸村が、自分の前でだけその服を脱ぎ捨て、本音も欲望も全てさらけ出して裸になる。いつも裸にされているのは自分だけだと思っていたが、彼を本当の意味で裸にできるのは己ただ一人であったのだ。


 その事実に、目の前の青年がとても愛しく思えた。






 「幸村、さっきも言っただろう?私はお前のメイドだ。お前だけのものだよ。

だから、もう上杉には帰らない。」

 そう言って、先ほど割れてしまった皿の破片を拾い上げながら兼続が笑った。その笑顔は、幸村が今まで彼女を見て来た中で一番綺麗な笑顔だった。









 (……ああ、やっと兼続殿が私のものになった。)



 彼女を手放すことなど、とうの昔にできなくなっていた。




    ―終―



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