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 兼続が真田邸で働くようになってから数か月。彼女は、侍女と言うか何と言うか…有り体に言えばメイドのような仕事をしている。それも、幸村付きの。
 何故兼続がこのような状態になっているかと言うと、世話になった上杉家が仕事の関係で武田家に借金を作ってしまい、その金を返すべく武田に自ら身を置き、働き出したところから始まる。早い話が、兼続が主の家のために自発的に借金のカタになったのである。それを、以前から彼女に懸想していた幸村がどうしてもと信玄に懇願し、武田の家から真田の家にやって来たと言う訳だった。






 「兼続殿、おはようございます。」
 メイドである彼女の一日は、現在の一応の主である幸村に起こされて始まる。普通は逆であるが、幸村が兼続の寝起き見たさでこれを提案し、断る術を持たぬ兼続が了承してこのようなことになっている。
「ん……おはよう、ゆきむら……。」
 普段折り目正しく凛と振る舞っている兼続が、弛緩な動きで眠そうに目を擦っている様子は確かに愛らしかった。白いふわふわとした生地のルームウェアも、彼女に良く似合いそれを増長していた。

 そして毎朝、幸村に必ずおはようのキスをされる。最初はこれに戸惑った兼続だったが、もう慣れたものだった。幸村にされる数々の妙な要求も、尊敬してやまない謙信公や綾御前様のためだと思えば何だって耐えられた。

 ……一番最初に無理やり体を暴かれ、幸村のものにされたときには流石に泣いたが、次の日には主を想い平静を取り戻していた。



 「兼続殿、今日は特別に頼む仕事がありません。一日私の側にいて下されば、それで結構ですので。」
「そうか、分かった。」
 他の使用人達とはデザインが異なる、兼続だけにとあてがわれたメイド服(パフスリーブのミニスカワンピにフリルのエプロン、ニーハイ、ヘッドドレス)に着替えて、まずは幸村の朝食の給仕。そのときに一日の仕事内容を聞く。まぁ、「ご子息付きのメイド」…と言うことなので、大体の仕事は幸村の身の回りの世話だ。
「こら幸村、こぼして食べるんじゃない。」
 兼続はくす、と笑って幸村の口許に付いたスクランブルエッグを指先ですくう。その指をそのままぺろりと舐めてしまうのだから、幸村は堪らない。




 ……このメイドは、壊滅的に鈍かった。

 いくら幸村がアプローチしても全く気付かず、強姦紛いのことをされても「そういう年頃なのだ」と翌朝笑って許した。既に幸村と同衾するのも慣れてしまっていた。彼が妙に自分に執着するのも、「本当に好きな人が見付からないからだ」と勘違いし、憐れんでさえいる。幸村に接すること全てが、同情や親愛の念から来るもの、また“上杉のための仕事”であった。当然幸村は、こんな状況が面白いはずが無い。彼女の根底には、いつだって「謙信公」がいる。クリスマスも近付くこの季節、サンタクロースに「欲しいものは?」と聞かれたら、彼は大真面目に「兼続殿の心。」と迷わず答えるだろう。



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