とびきり素敵な女の子A


二人は中学を卒業後、市内の同じ高校に進学した。三成と同じレベルの学校に受かるために、幸村が猛勉強をしたのは言うまでも無い。
そして高校入学を機に、幸村は女子の制服を着ることにした。元々彼は可愛らしい顔付きをしていたしポニーテールもよく似合っていたので、遠目からは背の高い女性にしか見えなかった。しかし近くで見ると男だと気付かれてしまうために、登下校中に好奇の目を向けられることはよくあった。しかし隣にはいつも美しい天使がいてくれた。辛いことは何一つ無かったのだった。
お揃いのシュシュを買ったり、寄り道をして一緒にケーキを食べたり。同世代の女の子達がするような過度なスキンシップは許してくれなかったけれど、気紛れに手を繋いだりしてくれた。こうして「女同士」として過ごす三成との何気無い時間は、幸村にとってかけがえのないものであった。日に日に綺麗になる彼女を真横で見るのにも、言いようの無い幸福を感じていた。



可愛い雑貨屋さんで買ったウサギの抱き枕に三成が選んでくれた香水を一吹きし、眠りに就くのが最近の幸村の安眠法であった。ローズの華やかな香りに包まれると大好きな友人のことを思い出す。夢でも会えたら嬉しいな、そんなことを思いながら幸村は眠りに落ちた。

気が付くと幸村は教会の中にいた。高い天井と色とりどりのステンドグラス、真新しいカーペットが目に入る。自分の姿を見ると、ストラップの付いたピカピカのハイヒールを履いて、裾にフリルがたっぷり付いた膝丈の赤いドレスと、レースの白いボレロを身にまとっていた。ベビーピンクとホワイトのフレンチネイルはとってもキュートで胸がときめいた。しかもそれだけでは無い。柔らかい胸もあるし太ももだってふにふにだ。

ずっと憧れていた、女の子になっていたのだ。

だがこんな都合のいいことがあるかと、幸村はこれが夢であることをすぐに悟った。とは言えどうせ夢なら、多少は楽しんでもいいじゃないかと彼(彼女?)は木でできた長椅子に腰掛けた。自分も周囲の人間も皆めかし込んだり正装をしていることから、これから結婚の儀式が始まるのが分かった。招待客の中には見知った顔も見えるが、新郎新婦は誰なんだろう。わくわくした気持ちで扉の方を見ていた幸村だったが、新婦が現れた瞬間に頭が真っ白になった。


純白のウェディングドレスをまとった三成が、そこにいた。


新郎は全然知らない男性。三成の晴れ姿を綺麗だとか考える余裕は、ちっとも無かった。頭に過るのはどうして?とか、何で?とか、そんな言葉ばかり。呆然とする幸村を他所に、儀式は粛々と進んでいく。

どうして愛なんて誓うの?某、そんな男の人知らない。その人が好きなの?三成殿、結婚しちゃうの?その人のものになっちゃうの?
やめろ、誓いのキスなんてするな。三成殿に触るな。

「やめろぉ!!!」

叫んで飛び起きて、ここが自分の部屋であることに幸村は心底安堵した。己の体を抱き締めると、夢とは違う固い感触がして息を吐く。パジャマ代わりのTシャツが汗でじっとりと湿っていた。

「…夢だって、分かっていただろう……。」

あのとき、自分は間違い無く女性の体だった。しかし、現実の自分の性別を捨てることは、三成を守り幸せにする資格、皆に認められて家族になる資格さえも捨てることになる。下半身にへばり付く邪魔で邪魔で仕方の無かった性器も、彼女と繋がる手段の一つだと思うと不要なものだとはもう考えられなかった。

(俺は、そんな気持ちで三成殿のことを……。)

幸村は泣いた。
それから、初めて三成のことを想って自身を慰めた。

(何て浅ましい!何て浅ましい!!)



思い出すのは、三成との邂逅。夕焼けと、彼女の白い肌。
自分を「女」だと言ってくれた、初めての友達。

手を汚し溢れた精液も、彼の涙のように見えた。




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