僕だけの、きれいなひとA


それから二人は、携帯の電話番号やメールアドレスを交換したりして急速に距離を縮めた(もちろん、それらを是非にと乞うたのは幸村の方である)。『恋人同士』には程遠いが、『顔見知り』のレベルからは脱却したようであった。休日も、三成は気が向けば会ってやっていたし、幸村少年は毎日が薔薇色であった。

今日も二人は、幸村が通う高校に程近い喫茶店でお茶をしていた。…三成のおごりで。
この喫茶店は個人経営の店で、フランチャイズシステムの店舗に比べると単価は幾分か高いが、供されるメニューの質も高かった。おしゃれな音楽におしゃれな内装、洗練されたアンティーク調の食器にテーブルカトラリー、そして温かいオレンジ色の照明は控えめで。そんな大人の雰囲気が漂う店内で、品の良い白いブラウスを纏い、美しいラインを描く足を組んだ美女……もとい三成がブラックコーヒーを口にする様は非常に絵になっていた。それに対し、テーブルを挟んで向かいに座る幸村は、ミルクに砂糖たっぷりのカフェオレを飲みながら、バニラアイスが載り更にメープルシロップがかかった甘ぁいパンケーキを食べている。正直、彼はこの場では浮いていた。

「うまいか?」
「はひっ!!」

三成の問いに、幸村は満面の笑みで返事をした。

「そうか。」

マスターに頼んで2倍の量にしてもらったパンケーキが幸せそうな表情をした幸村の口の中にみるみる消えていく。元々食の細い三成は彼を見ているだけでお腹がいっぱいになってしまい、注文したブルーベリーのマフィンを二口程度しか食べられなかった。ほぼ原型であるそれを、彼女はフォークで突つく。

「あ、あの、三成殿…。」

幸村は緊張した面持ちで、しかし食べる手は止めずに三成に話しかけた。この店のマスターや従業員は、いつの間にやら常連となったカップル未満の二人の進展を興味津々に見守っていて、今もこっそりと視線を寄越しているのであった。それに三成は気付かず、マフィンの中のブルーベリーを器用に掘り起こし一粒だけ口に運んだ。もじもじしている幸村に、目線だけで言葉の先を促しながら。

「実は某、来月で18歳になりまする。そこで…是非、三成殿に頂きたいものがあり申して……。」
「ふん、一丁前にプレゼントを要求するか。いいだろう、聞くだけは聞いてやる。」
「そんなに高価なものではありませぬが……その、婚姻届と貴殿の印鑑が欲し…んぐっ!?」
「戯れるな。」

三成は彼の口を目の前のマフィンを使って塞ぎ、要求を最後まで言わせなかった。
そして、

「夕方から用事があるから私は帰る。支払いは済ませておくから貴様は好きにしていろ。」

そう言うと伝票を持って席から立ってしまった。
手早くレジで会計を済ませると、幸村の方を向いて彼女は悪戯っぽく笑ってみせた。

「もし貴様が20歳になって、なお同じ物が欲しいと言うのなら……そうだな、そのときはくれてやる。」

三成は出入り口に付いているベルをカランと鳴らし、一度も振り返ること無く去って行った。幸村は、オフホワイトのブラウスが見えなくなるまで窓から外を眺めていた。

あの綺麗なお姉さんがくれたブルーベリーマフィンは、甘酸っぱい味がした。まるで、この恋のような。

「きっと、いい男になってみせまする。」

映画のワンシーンのようなこの一幕に、店内にいた客も従業員も、皆一様に目を奪われていたのだった。





2年後、とびきりのいい男になった幸村が、両手にいっぱいの薔薇の花束を抱えて三成にプロポーズをしに行くのだが、それはまた別の話である。





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